時速100キロで衝突し裸足で逃走…別府ひき逃げ殺人事件・八田與一容疑者(29)を追うディレクターが目撃した“遺族の不条理” 「解決しない限りずっと遺族」

2022年6月、大分県別府市の県道で信号待ちで停車中の2台のバイクに八田與一容疑者(29)が運転する軽乗用車が時速100キロ近い速度で衝突し、大学生一人が死亡、一人がけがをした。八田容疑者はそのまま現場から逃走。ABEMA的ニュースショーがこの事件を追い続けるワケを取材ディレクターが語った。 取材を担当してきたABEMA的ニュースショーの総合演出・谷口欽也氏は事件取材を通じて何を知ったのか。事件に精通する、社会起業家のたかまつななが話を聞いた。 ──そもそもこの事件をなぜ取材しようと思ったのか? 「もともと僕が大分県別府市出身であるということがひとつ。コロナ禍なので緊急事態宣言だった時期だから繁華街も人が少なかったし、なぜこの小さな別府で。しかもよく聞くと、スマホを置いて裸足で逃げたという情報がちらちら入ってきている中で捕まってないというので『え?なんで?』というのが最初です」 谷口氏が最初に遺族の家を訪ねたのは、事件発生から半年後の2023年の年明けだった。 ──ご遺族の方は最初にお会いした時はどういう感じだった? 「正直今だから言えますけど、かなり怪しいやつと思われていて。『ABEMAの谷口は実在しているのか?』と。なぜかと言うと、いろいろな怪しい人たちが近寄って来ていたんですって。探偵と名乗るような人から『一緒にやりませんか?』とか、占い師を名乗るような人から『どうですか?』みたいな。要はそれをひも解いていけば、どこかにお金を取られるというような」 ──ひどいですね。 「僕も自宅に行ったときに初めてびっくりしたのが、ご遺骨が2つあるんです。今もあります。要するに納骨されていないんです。受け入れられないわけですよね」 家には仏壇はなく、骨壺が2つ祀られていた。遺影の大学生は優しく微笑んでいた。悲しみの癒えない遺族はディレクターに訴えた。それが取材のきっかけとなった。 ──4年もかけて報じ続けるというのは、どういうきっかけだった? 「もちろん、悲しまれておられるというのが大前提ですけれども、多分8割9割が、警察の対応の悪さについて訴えられている、両親とも。対応してもらえなかったとか、電話しても“けんもほろろ”だったみたいなことを割と、わんさか聞いたんですよ。『え?そういうことなの?』と。僕も最初は答えを何も準備しないで行ったのに、やっぱり自然と『八田、一緒に探しましょう。僕らはメディアの力としては弱いかもしれないけども、ネットの中での展開というのは、もしかしたら広まるかもしれません』ということをその場で言ったら『是非お願いします』という話になって」 ──そう思ったのはどうして? 「それしかできないと思ったんですよね。『ご遺族が大切な息子さんを亡くされて、いかに悲しんでいます』ということはもちろん、表現しようと思ったらできたと思うけど、それをご両親が望んでいないような気がしたんですよ。捜査機関でもなんでもないですけども、その言葉しかなかったかなと」 そこから番組では遺族と力を合わせ、全国各地でビラを配布するなど、事件周知の行動に出た。一方でそれは、中立という報道の原理原則からすれば、遺族側に寄りすぎる行為にも映る。しかし遺族と向き合う中で見えてきたのは、これまで報道されてこなかった不条理の数々だった。 ──遺族に寄り添いすぎることをあまり良しとされないような風潮もある中で、ABEMA的ニュースショーは思い切って振り切っていると思うが、葛藤とかはなかった? 「もちろん『中立である』とか『客観的な報道である』というのはもちろん僕らも叩きつけられているし、僕も大学時代はジャーナリズムを習っていたので、そういうのもひたすら勉強させられていた側なんです。でも『伝えている内容というのは果たして中立なのかな?』ということですよね。警察側の発表を僕らは9割方伝えているんじゃないかなと。両面を見なきゃいけないんだけども、見えない片面っていうのがあるだろうと思って。そっちを主語にすると、どういう景色が見えるのかな……という風には貫こうと思ったんです。田原総一朗さんがよくおっしゃっていた『デモ隊をどう取材するか』という話があるじゃないですか。デモ隊の側から見るのか機動隊側から見るのかというので、同じ事象だけど全然見え方が違う。現実的にそれができるかと言うと、実際の仕事でなかなかできないと思うんですけど。僕としては知ってしまった者の義務を果たさなきゃいけないと思って」 ──最初はどういうところに不信感を思った? 「たまに来られるんですって、警察の方が。いわゆる捜査報告で。だけど結局、捜査報告だけされて、質問しても『答えられません』というのが続いたりとか。ご遺族の方からすると、県警本部長にお会いして陳情したい。ご遺族からすると藁にもすがる思いで。だけど警察からすると『何をうちのトップの……当たり前ですよ、そんなの無理』と言われたらしいんですよ。警察ばかり批判するわけでは決してないけれども、情報公開請求をしたら、いわゆる“のり弁回答”というか。(塗りつぶされて)真っ黒です。そこに不誠実さを感じるというか、なぜまたご遺族を痛めつけなきゃいけないのか。ただ知りたいだけなのに。実際に警察を囲むような取材に参加するようになって、質問を投げかけたら、歯切れの悪いことを知ってしまったわけですよね。知っていたわけじゃなくて」 ──その歯切れの悪さというのは、どこから来ていると思う? 「メディアに囲まれて矢面に立ってしゃべる人というのは、当時は道路交通法違反なので交通課長なんですよ。かたや殺人事件だって主張している人たちがいる中で、対応して向き合ってる側は交通事故を処理する人たちがいる。それは、かみ合うわけがないですよ。知ってしまったことの事実が積み重なったことというのが、この事件の一端で学んだことというか、知ってしまったこと」 被害に遭った側が勇気を振り絞って立ち上がらないと、何も動かない実情を知った。加害者の権利は守られ、被害者の権利がないがしろにされている実態も知った。被害に遭った側が情報を集め、署名を集め、行動に出たからこそ重要指名手配に指定され、殺人容疑の追加も実現した。忘れてはならないのは、心の回復ができないままということだ。 ──ここまでご遺族の方がやらなければいけないというのも、すごく大変ですよね。 「ご遺族の方もおっしゃっていたんだけど、近所で、例えば普通に居酒屋で楽しそうに飲んでいるのを見られたら、もちろんその人がご遺族のお母さんだって知らないにしても『どう思われるか』ということを感じてる。ご主人と家で2人でお話をさせてもらった時に、終わってカメラを切った瞬間に、すごく泣き伏せられた。あんなに泣かれるのって初めて見たぐらい。それで初めて、どれだけ普段無理して生活されて、無理して僕らに接してくれているのかというのをすごく感じたんですよね。糸が取れた瞬間がバーッと出ちゃうというのを、『一生懸命か細い糸で締めて普段いる』という状況は一番感じますよね。同時に『かわいそうな人たちっていう風に思われたくない』ともおっしゃっているんですよ。そういう中で生活されているっていうことを多くの方に感じていただいて、一刻でも早い逮捕に協力してほしいというのは、取材者としては本当に思います」 ──4年が経過し、風化してしまうのではないかという点もすごく気にされていると思うが。 「風化は自然現象なのですると思うんですよ。僕らが八田事件をやると、ABEMA的ニュースショーの視聴者の方というのは、ずっと観てくださっているから『また八田?』という風な書き込みもあったりするわけですよ。だけど僕としてはもっともっと多くの人が『また八田やるの?』という風に思ってほしいんですよね。こっちが風化しちゃうと、あっという間ですから。『どんなに些細な情報でもください』って決まり文句で言うじゃないですか。事件の日にビラを配るという、ちょっとしたパフォーマンスな部分が警察にもあるんじゃないかと、僕もそう思っていた部分が正直ありました」 「だけど、そのビラで気づきになって『あ、こいつ似てるな』とか『似ているやついるね』と、要するに似ている人がいるという通報で犯人確保というのが結構あるんですよ。だから僕らがずっとやるのも、もしかしてどこかで誰かが初めて観る人がいるかもしれないし、『またか』っていう中でもその印象をさらに深めてもらって、ふっと見た時に『え!?』って思う人がいるかもしれない」 「秋山さん(元徳島県警捜査1課警部の秋山博康氏)がよく言うことで『警察は努力賞がない。100点か0点』と。並走している僕らからすると、やっぱりそこは同じで。亡くなった方の家族はご遺族なんだけれども、僕も父親を亡くしてとか、みなさんいろいろおじいちゃんやおばあちゃんが亡くなったりとかおありだと思うんですけど。一般的な人がご遺族って言われるのって、お通夜かお葬式の日ぐらいですよ。だけど未解決の事件の遺族の方は今も遺族なんですよ。ずっと遺族なんです、解決しない限り。早く『ご家族』に戻したいというか。風化は仕方ないと思うんですけど、それを食い止めるにはやり続けるしかない」 情報提供先は、別府警察署0977-21-2131。ABEMA NEWS公式X(@News_ABEMA)のDMでも情報を募集している。 (『ABEMA的ニュースショー』より)

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