【社説】松橋冤罪で判決 捜査機関の不正義を断罪

罪のない市民を犯人にでっち上げ、人生を奪った。警察と検察、双方の不正義を断罪する司法判断である。 1985年に熊本県松橋(まつばせ)町(現宇城市)で起きた殺人事件を巡り、再審無罪が確定した故宮田浩喜さんの遺族が、損害賠償を求めて提訴していた。先週の控訴審判決で、福岡高裁は国と熊本県に計約2300万円の賠償を命じた。 一審判決は国にだけ賠償責任を認定していた。控訴審判決は、取り調べでの自白の強要など、県警の捜査も違法と断じた。検察の違法な公判対応に対しては、一審より踏み込んで指弾した。 理にかなった判決だ。国と県は上告すべきではない。警察と検察は猛省し、冤罪(えんざい)を生んだ責任の所在を明らかにしなければならない。第三者機関による検証はもちろん、関係者の処分なしに国民の信頼は回復できない。 宮田さんは任意聴取の段階で殺害を認めて逮捕された。一審の途中で否認に転じたものの、90年に懲役13年の判決が確定した。服役後の2019年に再審無罪となり、翌年に死亡した。 逮捕前の取り調べは9日間にわたり、約81時間に及んだとされる。高裁は「極端に長時間で任意捜査の限度を超えている」と指摘した。 さらに裏付ける証拠もなく犯人と決めつけて尋問し、宮田さんは身体的、精神的に疲弊して自白に至ったとした。「自白させるために追及を続けており違法と言わざるを得ない」と批判している。 捜査機関には自白偏重の風潮がいまだに根強い。警鐘を鳴らした判決と言えよう。 検察の公判対応にも厳しい目を向けなければならない。 宮田さんは、凶器の小刀に巻き付けたシャツの切れ端を「犯行後に燃やした」と供述した。このシャツ片が再審無罪の決め手となった。焼失したはずのものが、再審請求の準備中だった弁護団により、開示された検察の証拠の中から見つかった。 シャツ片は一審の初公判の前には検察官へ送致されており、高裁は今回の判決で「自白に疑いがあることを把握し得た」と述べている。 一審判決は、把握しながら公判で示さなかった検察官の注意義務違反にとどめた。高裁は、起訴の取り消しや無罪論告をする義務にまで踏み込み、検察が意図的に違反したのであれば「犯罪的な行為とすら言い得る」と非難した。 検察はシャツ片を「握りつぶした形」(高裁判決)で有罪の主張を続けた。再審請求審では地裁、高裁の再審開始決定に対し、いずれも不服申し立て(抗告)をした。言語道断だ。 先の国会で、再審制度を見直す改正刑事訴訟法が成立した。検察官が要職を占める法務省の抵抗で、検察抗告の全面禁止が見送られた。 松橋事件のような理不尽な抗告がある以上、やはり全面禁止としなければならない。

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