プーチン大統領にウクライナでの「勝利などない」、ノーベル平和賞受賞のジャーナリストがBBCに語る

スティーヴ・ローゼンバーグBBCロシア編集長 ロシアの首都モスクワにある新聞社「ノーヴァヤ・ガゼータ」のオフィスでは、廊下は静まり返っている。 そこにあるのは圧倒的な虚無感だ。 「もはや新聞は存在しない」と、元編集長のドミトリー・ムラトフ氏は、BBCニュースのユーチューブ・チャンネルで公開された単独インタビューの中で語った。 64歳のムラトフ氏は、30年以上前にノーヴァヤ・ガゼータを共同創刊した。同紙はロシアにおける辛辣な独立系ジャーナリズムの旗艦となり、人権侵害や高官の汚職に光を当ててきた。 2021年、ムラトフ氏は「表現の自由を守るための努力」が認められ、ノーベル平和賞を共同受賞した。ノーベル委員会は、「チェチェン戦争に関する暴露記事を書いたアンナ・ポリトコフスカヤ氏を含む(ノーヴァヤ・ガゼータの)記者6人が殺害された」と指摘した。 それは、勇気ある報道に対する評価だった。 しかし、それでは紙の新聞を守ることはできなかった。 「プーチンが布告を出し、新聞社の印刷工場は国有化された」とムラトフ氏は説明する。「そして、新聞社の登録は取り消された」。 ノーヴァヤ・ガゼータはインターネットにその存在を維持している。しかし、それはかろうじてのことだ。当局がウェブサイトへのアクセスを遮断しているため、海外からアクセスするか、VPN(仮想プライベートネットワーク)を利用して制限を回避する場合にのみアクセスできる。 同紙の苦境は、2022年のウクライナへの本格的な侵攻以降に加速している、ロシアにおける言論の自由に対する広範な弾圧を反映している。 「多くのオピニオンリーダーが『外国のスパイ』、『過激派』、あるいは『テロリスト』と宣告されている。数百人に上る」と、ムラトフ氏は語る。 「数字は様々だが、控えめに見積もっても、ロシアによる『(ウクライナでの)特殊軍事作戦』開始以来、少なくとも1500人が、現行の国家政策に反対の声を上げたとして投獄されている。これは、ソ連時代の国家保安委員会(KGB)による弾圧が横行していた時期の3倍に当たる」 1975年のノーベル平和賞受賞講演で、反体制派のアンドレイ・サハロフ氏は、自身が知るソ連国内の政治犯として、120人以上の名前を挙げた。それから10年後、人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは、ソ連国内の「良心の囚人」は600人以上だと推定した。 ロシア政府は2022年、「軍事作戦」が短期間で成功すると想定していたが、第2次世界大戦以来、ヨーロッパで最も血なまぐさい紛争となった。 しかし、自信に満ちたプーチン大統領は、ロシアの勝利を予測し続けている。 「『勝利』などあり得ない」とムラトフ氏は反論する。「なぜなら、ほぼ5年近く続いてきたこれは、たとえどんな結末を迎えようとも、もはや勝利とは言えないからだ」。 「二つのスラヴ民族国家が100万人、いや100万人以上もの人を八つ裂きにして殺したのだから、それは勝利とは言えない」 「私が思う今のウクライナ情勢はこうだ。『破壊することはできても、征服することはできない。』ここで言う破壊とはどういう意味か? それは核兵器の使用に至るまで、事態をエスカレートさせ続けることだ」 ムラトフ氏は本当に、プーチン氏がこの戦争で核兵器を使うと信じているのだろうか? 「プーチンはこう考えているとか、プーチンはあれを恐れているなどと言う政治専門家はみんないんちきだ」とムラトフ氏は主張する。「占星術と同じレベルだ。ウラジーミル・プーチンの頭の中で何が起こっているのか、誰も知らない。私も知らない」 「私はジャーナリストとしてしか物事を見ていない。私はビッグデータを研究している。そして、今年に入ってから核兵器使用の必要性が500回以上も言及されている。狂人がそんなことを言っても私は気にしないが、(ロシアの)国営テレビで議論されているのを耳にした。また、国営イベントであるサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでは、講演者の一人が核兵器の使用を好ましいこと、良いことであるかのように語っていた」 2022年2月にウクライナへの全面侵攻を発表した際、プーチン大統領は「ロシアの安全保障を確保するため」だと述べた。 「教えてほしい、治安は向上したのか?」と、ムラトフ氏は問いかける。 「ウクライナのドローンが(ロシア最大のオンライン小売業者)ワイルドベリーズの倉庫を攻撃し、石油危機、モバイルインターネットの障害、政治犯の存在など、様々な問題が起きている中で、治安は向上したと言えるのか? それとも違うのか?」 世論調査ではプーチン大統領の国内支持率が低下している。しかしムラトフ氏は、大統領は依然として権力をしっかりと掌握していると考えている。 「残念だが、エリート層の間で分裂が起きているとか、秘密の陰謀が行われているとかいう話は信じない。この国はウラジーミル・プーチンが統治している。彼らはプーチンを恐れているだけだ」 「そしてこの恐怖は、彼の主要な支持基盤である連邦保安庁(FSB)によって、あらゆる面で強化されている」 自国政府に対して批判的なムラトフ氏は、西側諸国に対してもほとんど幻想を抱いていない。 「プーチンはヨーロッパの指導者たちの本当の価値をよく理解している。彼らは一方では人権についてプーチンに語りかけるが、プーチンはそれを聞いて大声で笑う。なぜなら他方では、石油やガス、ダイヤモンドなどの貿易に関してロシアと協定を結んでいる(あるいは結んでいた)からだ。彼らがプーチンにヨーロッパの価値観を語る時、プーチンは本当に大声で笑う。彼は、自分にそうした価値観を説く人々の本当の価値を知っている」 ロシアではムラトフ氏は「外国の代理人」に指定されている。これは政権を批判する人々を罰するためによく使われるレッテルだ。「外国の代理人」」は権利が制限され、教職や選挙への参加が禁じられる。自宅を売却しても、その資産にアクセスできない。このレッテルは、汚名を着せ、社会に内部の敵がいるという意識を植え付ける目的でも用いられている。 だがムラトフ氏はこのインタビューで、自身が受けているプレッシャーに焦点を当てることをためらっているようだった。代わりに、刑務所に収監されている同胞たちの窮状を強調しようとした。 「私が今最も懸念しているのは、隣国での土地収奪に最初に声を上げた政治犯たちに、世界中の誰も関心を寄せていないことだ」と、ムラトフ氏は説明する。 彼はフォルダを開き、大きな写真の束を取り出した。受刑者たちの肖像写真だった。 そのうちの1枚は、過激主義の罪で有罪判決を受けて収監された4人のジャーナリスト、アントニナ・ファヴォルスカヤ氏、コンスタンティン・ガボフ氏、セルゲイ・カレリン氏、アルチョム・クリガー氏が写っている。4人は、野党指導者だったアレクセイ・ナワリヌイ氏(故人)が設立した反汚職団体とのつながりを疑われていた。 アレクセイ・ゴリノフ氏の写真もある。ゴリノフ氏は市議会議員で、ウクライナ戦争に反対する発言をした後、ロシア軍に関して「故意に虚偽の情報を流布した」として収監された。 「そして、こちらは素晴らしいピアニスト、パヴェル・クシュニールだ」と、ムラトフ氏は指をさす。「ラフマニノフとシューベルトの演奏で傑出した才能を発揮していた」 クシュニール氏は、反戦動画を投稿した後に逮捕された。ムラトフ氏は別の動画を掲げている。 「そして、これが棺の中の彼だ」 クシュニール氏は2024年7月、ハンガーストライキ中に拘置所で死亡した。39歳だった。 次々と披露される写真や獄中生活の証言は、権力者に反抗しているとみなされた人々が直面する危険を浮き彫りにしている。当局や戦争に対する公然とした批判がもたらすリスクを、改めて思い起こさせるものだ。 「ノーベル賞受賞者であるということは、少なくとも自分の言いたいことを言う上で、ある程度の保護を与えてくれるものなのでしょうか」と、私は尋ねた。 「それは私に尋ねるべき質問ではない」とムラトフ氏は答えた。「機会があれば、当局に聞いてくれ」 最後の写真は、今年4月に撮ったものだ。 「これは当紙の弁護士が建物に入るのを待っていた時の写真だ。警察が私たちのオフィスを捜索していた。13時間もかかった。しかも弁護士は入れてもらえなかった。オレグ・ロルドゥギン局長は現在、自宅で軟禁状態に置かれている」 ムラトフ氏は、ロシア当局を批判する人々の生活の暗い実態を描き出している。 しかし、希望の兆しも見える。 「今は沈黙を守るべき時代だ。しかし、私たちの活動を支持してくれる人は本当にたくさんいる。モスクワの街頭では、私や同僚たちは感謝の言葉しか耳にしない。それはささやき声で語られるが、人々の考えはとても重要だ」 (英語記事 Putin can no longer claim victory in Ukraine, Nobel Peace Prize winner tells BBC)

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