清水邦夫の幻の名作、40年ぶり上演へ 大河内直子さんが演出

社会への強いメッセージを詩情あふれる言葉で紡ぎ、1960年代後期から70年代にかけて「政治の季節」の挫折に揺れる若者たちから熱狂的に支持された劇作家、清水邦夫(1936~2021年)。 幻の名作「夢去りて、オルフェ」が約40年ぶりに上演される。 演劇ユニットunrato(アン・ラト)による公演で、大河内直子さんが演出を手がける。「過去はないことにはできない。いま自分が立っているところは、長い過去からの時間の積み重ねの上にある。死者たちの声に耳を傾けることができるのが演劇」と上演への思いを語る。 「夢去りて、オルフェ」は86年、清水らが旗揚げした木冬社の10周年記念として、平幹二朗、松本典子らにより初演された作品だ。2年後に再演されている。 時代は39(昭和14)年。ヨーロッパでは第二次大戦が始まり、日本は大陸での戦争が続いていた。ノモンハン事件が起こったのもこの年だ。火災で焼けた北陸酔ケ浜遊園地を舞台に、国語教師の桂木一機(大石継太)と、故郷に帰ってきた血のつながらない妹ぎん(朝海ひかる)、陸軍大尉夫人の小桜夢野(平体まひろ)ら人々の思いが、幻想を交えて描かれる。 一機は、36年に起きた陸軍青年将校によるクーデター未遂「二・二六事件」で逮捕され処刑された思想家、北一輝がいまだに生きていると信じていて、夢野とは密通のうわさが流れている。 以前にも清水の「楽屋」を演出している大河内さんは「清水さんの作品の魅力は、『70年代の闘争の時代の旗手』という視点からだけでなく、昭和の日本のねじれやゆがみも描かれている。今回の作品にも通じるところがあります」と言う。 その上で、「清水さんたちが生きて、ひた走っていた70年代と、舞台となる39年、この作品が書かれた86年という、三つの時代の視点を意識していくことで、私たちの現在地が見えてくるのではないかと思っています」とアプローチを明かす。 ◇蜷川幸雄氏の演出助手務める 大河内さんがイヨネスコの「犀(さい)」(燐光群アトリエの会)で演出家デビューしたのは2004年。90年代、英国滞在中に蜷川幸雄(1935~2016年)と出会い、「海辺のカフカ」などで蜷川の演出助手を務めてきた。蜷川といえば、60年代後期から清水とコンビを組んで「真情あふるる軽薄さ」など清新な作品を次々と世に送り出してきた存在だ。 「70年代のエピソードは折々に蜷川さんの稽古(けいこ)場でうかがう機会がありました。敗戦の焼け野原や、政治の季節の敗北を肌身で知っている人たちにはかなわない。彼らの信念や敗北への思いを私たちは知らなければならない、継いでいかなければならないと思っています」と話す。 「楽屋」では「かもめ」、今作では「三人姉妹」と、19世紀後半から20世紀初頭に生きたチェーホフの作品が印象的に使われていることに興味を引かれる。 「引用されることで、100年以上にわたる時代のさざめき、波が押し寄せてくる気分になる。そういう作品をやる恐怖感を大事にしたいです。この作品は、緻密なチェーホフ的アプローチで入っても、それだけでなくシェークスピア的にジャンプすることも求められる。そういう振り幅を楽しみながら、俳優、スタッフとともに格闘中です」 8月21~30日、東京芸術劇場シアターウエスト(東京・池袋)。問い合わせはメール([email protected])へ。【濱田元子】

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