社説:ガザ戦闘1年 虐殺、人道危機止めねば

パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘が始まって1年が経過した。 ハマスの奇襲攻撃が発端となり、イスラエル市民約1200人が殺害、約240人が人質になった。強く非難されるべきで、人質全員の即時解放を改めて求めたい。 イスラエル軍はガザに空爆と地上侵攻を繰り返し、死者は4万1千人超に上る。大半は女性や子どもを含む一般市民である。 ガザの学校や医療施設、難民キャンプなどへの無差別攻撃による殺りくは、主張する「自衛」の範囲をはるかに超える。直ちに撤退すべきだ。 ガザの避難民は人口の9割に当たる190万人を超える。食料不足や医療体制の崩壊、衛生状態の悪化が続き、人道危機が極まっている。 深刻なのは、状況を悪化させるばかりのイスラエルを、国際社会が抑えきれないことだ。 米国は、来月5日の大統領選を前に親ユダヤ世論に配慮し、停戦仲介に腰の引けた対応を続けている。ネタニヤフ政権は見透かしたように振る舞って、バイデン民主党政権を揺さぶっている。 欧州諸国はウクライナに侵攻したロシアに制裁を科す一方、イスラエルを強く制止しない。 ダブルスタンダード(二重基準)と言うほかない。グローバルサウス(新興・途上国)などから批判が噴出し、紛争解決へ結束できずにいる。 国際司法裁判所は1月、イスラエルにジェノサイド(大量虐殺)の防止を命じる仮処分を出し、国際刑事裁判所は5月、戦争犯罪容疑でネタニヤフ首相の逮捕状を請求した。 ハマスと共闘する親イラン勢力の指導者殺害や隣国レバノンなどへの侵攻拡大は、ネタニヤフ氏の権力維持の狙いも透ける。 ハマスの襲撃と長期戦の背景には、イスラエルがユダヤ人によるパレスチナ人居住地への不法入植を促進し、ガザを封じ込めてきたこともある。力による現状変更の姿勢は、厳しく問われるべきだ。 国連総会は先月、イスラエルに対して不法なパレスチナ占領政策を1年以内にやめるよう求める決議を採択した。 決議に法的拘束力はないが、粘り強く圧力を高め、停戦交渉への道を探らねばならない。 日本は歴史的に中東各国と良好な関係にある。ガザから目をそらさず、独自に和平へ力を尽くしたい。

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