ぜいたくな究極の二択【白球つれづれ】

◆ 白球つれづれ2026・第40回 阪神が球団史上初のリーグ連覇を果たしたのは、今月3日のことだった。 敵地に乗り込んでの広島戦は接戦を落として、ナイターで行われた巨人の結果待ち。その巨人もDeNAに敗れたため、8度目のリーグ優勝が決まった。「史上初の監督にしていただいてありがとう」。 祝勝会でクラスを片手にあいさつした藤川球児監督の笑顔がはじけたが、優勝決定の瞬間には涙を流している。 長いペナントレースの間には、いくつもの困難と試練が待ち受ける。故障者の続出や、9月に入って、まさかの7連敗で巨人の猛追を受ける。優勝候補の本命と目されていただけに指揮官にのしかかる重圧は計り知れないものがあったのだろう。 今季のセ・リーグは阪神以外のチームに不安材料が続出した。 巨人は岡本和真、ヤクルトは村上宗隆の両選手がメジャーへ移籍したため大幅な戦力ダウンを余儀なくされる。 広島はいわゆる「ゾンビたばこ事件」が起こり、試合以前にチームが空中分解の危機に直面。羽月隆太郎選手の契約解除だけで収まらず、今月1日には昨年の首位打者である小園海斗ら4選手に戦力外通告が言い渡された。事件への関与に関しては「グレー」のままだが、球団側は「信頼関係が築けない」との理由で断罪した格好だ。 巨人は5月に阿部慎之助監督が、家人への暴行で逮捕される事件で同監督が辞任、橋上秀樹監督代行が指揮を執る異常事態に追い込まれた。 そんな中で池山隆寛新監督のヤクルトが新外国人、ホセ・キハダ投手の開幕17戦連続無失点の超人的な活躍で一時は首位に躍り出るが、勢いだけでは長続きしない。5月途中で首位に返り咲いた阪神は最後まで守り抜いて栄光のゴールに飛び込んだ。 他球団もうらやむ投打のバランスに加えて指揮官は連覇を狙うための秘策も用意していた。 昨年の強力中継ぎ陣を担った石井大智投手がアキレス腱断裂で期離脱。左腕の及川雅貴投手や抑え候補のラファエル・ドリス投手らの調子が上がって来ない、と見るや工藤泰哉、木下里都らの若手投手を積極起用。いずれも160キロ超えの快速球を駆使して、シーズン終盤には抑えの切り札にまで成長した。この辺りは中継ぎエースとして活躍した「火の玉・球児」ならではの育成術である。 喜びに沸く虎党にあって今、最も熱い話題はシーズンのMVP争いだろう。 打撃の佐藤輝明VS投手の高橋遥人。どちらに転んでも阪神勢の受賞は間違いないが、成績を比較するとまさに甲乙つけがたい。究極の二択問題だ。 打率.314に、39本塁打、105打点で打撃の三冠王を手中にしている佐藤に対して、高橋の数字も群を抜いている。16勝3敗で最多勝と勝率.842で二冠に輝き、防御率も僚友の村上頌樹投手とわずか0.02差の1.87だから実質「投手三冠」と言ってもおかしくない。(数字は優勝決定時の10月3日時点) 打撃三冠の事実は重いが、阪神の岡田彰布前監督(現球団顧問)カ「高橋1人でチームの貯金の大半である13を稼いでいる。そら、高橋よ」と語るように左腕エースをより評価する声は意外と多い。 そこで過去の三冠王とシーズンMVPの関係を調べてみた。 2リーグ分立後の1950年以降に誕生した打撃三冠王は野村克也(南海)を始め、王貞治(巨人)落居博満(ロッテ)ブーマー・ウェルズ(元阪急)ランディー・バース(阪神)松中信彦(元ダイエー)に、村上宗隆(ヤクルト)の7人。このうち落合は3度、王とバースは2度受賞している。 各選手ともシーズンMVPは獲得しているが例外もある。 落合が三度目の三冠王に輝いた1986年のMVPは西武の石毛宏典、バースの二度目の1986年は広島の北別府学両選手が受賞している。 石毛は西武黄金期の卓越したリーダーシップが評価されたものだが、北別府は、この年の成績が18勝4敗、勝率.818に、防御率も2.45の投手三冠。赤ヘルの大エースにMVPレースの軍配は上がった。 それ以外にも85年の渡辺久信(西武)や85年の小松辰雄(中日)22年の青柳晃洋(当時阪神)らが投手三冠の働きを見せたものの打者がMVPタイトルを獲得した。 来季はメジャー挑戦が確実視される主砲の佐藤輝か?それとも度重なる故障に泣かされ、ようやく大輪の花を咲かせた苦労人の高橋か? ベテラン運動記者の投票によって決まるMVPレース。いずれにせよ、クライマックスから日本シリーズへ。両雄の大車輪の働きがあって初めて日本一の道が見えて来る。文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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