地上に人がいるのを認識しながらビルなどから飛び降り、歩行者などを巻き添えにした場合は「未必の故意」による殺人には当たらないのか――。娘を亡くした父親が、そんな疑問を社会に問いかけるオンライン署名を始めた。 署名を募っているのは三重県度会町の稲葉健二さん(50)。7月19日未明、名古屋市内の歩道を歩いていた次女の朋来(ほうら)さん(23)が、12階建てマンションの11階ベランダから飛び降り自殺をはかった男性(29)に巻き込まれ死亡した。 男性は意識不明の状態が続いていたが、その後会話ができるまで回復し、愛知県警が8月末、重過失致死容疑で逮捕した。 現場は大通り沿いで夜間でも明るく、人通りも多い。稲葉さんは「人通りの多い繁華街の高層階から飛び降りれば下にいる人に衝突し、命を奪うことは容易に分かったはず。これは事故でも過失でもない」と訴える。 ビルなどから転落した人に巻き込まれ、歩行者などが亡くなる事案は過去にも起きている。 大阪市北区の商業施設「HEP FIVE(ヘップファイブ)」で2020年10月、高校2年の男子生徒(17)が屋上から転落し、地上にいた女子大学生(19)と衝突。 24年8月には横浜市西区の「JR横浜タワー」で、12階屋上広場から高校3年の女子生徒(17)が飛び降り、地上を歩いていた女性会社員(32)が巻き込まれた。 25年5月には大阪市北区のタワーマンション43階から住人男性(70)が飛び降り、自転車で通りかかった男性(59)と衝突した。(年齢はいずれも当時) いずれのケースも自ら飛び降りたとみられ、巻き込まれた人とともに死亡している。転落した人はその後、容疑者死亡のまま重過失致死容疑で書類送検され、後に不起訴処分となっている。 「人が通る場所に飛び降り、誰かを巻き込んで殺しても、自殺目的であれば過失にしかならないという悲惨な前例を残すことになる」と、稲葉さんは警鐘を鳴らす。 その上で、強く願う。「娘の死を単なる『不幸な事故』として終わらせず、司法には命の重さに正面から向き合ってほしい」【木谷郁佳】