11年前、香港の自由が失われる近未来を描いた映画「十年」(2015年公開)。作品が予見したかのように、香港では言論や表現の自由への締め付けが強まっている。作品の一編を監督した伍嘉良氏(45)は2020年の香港国家安全維持法(国安法)の施行後、家族と英国に移住した。伍氏は10月31日に東京都渋谷区で開かれた上映会で、天安門事件や香港の民主化デモに関連する追悼行為について「花を持っているだけ、黙とうするだけでも逮捕されたり、追い出されたりする」と語った。■卵を投げなかった1人の少年「十年」は、5人の監督が10年後の2025年の香港をそれぞれ描いた5本の短編からなるオムニバス映画。16年に香港のアカデミー賞と呼ばれる「金像奨」作品賞を受賞した。5本のうち、伍氏が手がけた短編映画「本地蛋」(地元産の卵)の終盤では、中国の文化大革命時代の「紅衛兵」を思わせる制服姿の少年少女らが、禁書を扱う書店に卵を投げつけていく。しかし、一人の少年だけは卵を投げなかった。書店は言論の自由を奪われる側、卵を投げる少年らは当局の意向に従って言論を弾圧する側を表しているとみられる。卵を投げなかった少年は、周囲に同調せず、書店への攻撃を拒んだと解釈できる。伍氏は少年の行動について「一つの選択肢だ」と述べるにとどめた。■香港に残る人々の苦境国安法の施行後、香港では言論や集会の自由が制限され、海外に移住した香港人は30万~40万人に上ると推計される。伍氏は、自身ら海外に移住した香港人は弾圧を恐れずに意見を表明できる一方、香港に残る人々は基本的な意思表示さえ難しいと指摘した。「互いを守り、表現し、尊重し合う方法を模索し続けなければいけない」と語った。■信念を曲げざるを得ない現実上映後の討論には、民主派の元香港区議、葉錦龍氏も登壇した。葉氏も国安法の施行後、香港を逃れ、東京で暮らしている。香港に残る人々について「家族や友人、仕事など、いろいろなものを背負っている。信念を曲げ、従わなければいけない状況を強いられている。どうあるべきかは、外の人間には分からない」と述べた。かつて香港で自由や民主を求めながら、親中派に転じたように映る人々もいるという。葉氏は、そうした人々への批判の必要性にも触れる一方、「事情を察し、尊重し合わなければいけない」と語った。