呉美保監督「ありそうでなかった映画を常に考えてきた」第39回東京国際映画祭「黒澤明賞記者会見」でモハマド・ラスロフ監督との受賞に笑顔

開催中の第39回東京国際映画祭(TIFF)にて11月3日、黒澤明賞の記者会見が行われ、受賞者の呉美保監督、モハマド・ラスロフ監督が登壇し、受賞の喜びや映画制作への想いなどを語った。「黒澤明賞」は、日本が世界に誇る故・黒澤明監督の業績を長く後世に伝え、新たな才能を世に送り出すため、世界の映画界に貢献した映画人、映画界の未来を託していきたい映画人に贈られるもの。今年は山田洋次監督、李監督、芦澤明子撮影監督、市山尚三東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの4名が選考委員を務め、呉監督、ラスロフ監督の受賞が決定した。受賞の報告を受けた際には「なにかの間違いじゃないか。もしかしたら新手の詐欺かもしれない…」とすぐには信じられなかったと振り返った呉監督は、「なにより嬉しいのが、私が大好きなラスロフ監督とともに受賞できること。おそれ多くも本当にうれしく思っています」と笑顔を見せていた。ラスロフ監督は「黒澤監督作品のなかでも一番好きなのは『デルス・ウザーラ』。なぜ好きなのかというと、アンチ暴力を描き、私はたくさんインスパイアされている映画だからです。この賞をいただくこと、そして呉監督と一緒に肩を並べて賞をいただくことを本当にうれしいと思いますし、私を選んでくださったみなさん、映画祭、黒澤明監督の関係者の方にも大変感謝します」とお礼を伝えた。スクリプターとして映画界に入り、『酒井家のしあわせ』(06)で長編映画監督デビューを果たした呉監督は、『きみはいい子』(15)ではモスクワ国際映画祭にて最優秀アジア映画賞受賞をはじめ国内外で60もの映画賞に輝いた。その後、出産・育児を経て9年ぶりに吉沢亮主演の映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』(24)で本格復帰。続く最新作『ふつうの子ども』(25)は世界各地の国際映画祭での上映が続いている。子どもを描くことが多いことについて「子どもを描いた映画で、腑に落ちる作品に出会えず。もし、日本映画で(腑に落ちる作品に)出会っていたら、こういう映画は撮っていなかったかもしれません」と説明。自身の経験と重ね、「自分自身が子どもを出産し、目の前に毎日子どもがいるような生活をしている中で、得体のしれない生命体というか(笑)。本当にピュアだけど残酷。そういう手に追えない生命体に対して、私がすごく探究心というか、作り手として触発される日々を送っています。これを映画にし、自分が誰よりも子どもを活き活きと描いてみせる、それをしなければ、映画人としてこれからやっていけない。それくらいの気持ちで自分にしか描けない、ありそうでなかった映画というものを常に考えてきました」と映画制作への熱い想いを丁寧に明かした。イラン南部シーラーズ出身のラスロフ監督は、社会学を学んだ後にドキュメンタリー制作の道へ。2000年に初の長編映画を手がけている。「権威主義的支配の下では、映画を作ることそのものが政治行為だ」という信念のもと、政府の検閲と真正面から向き合い続け、作品の多くは当局の目をかいくぐりながら秘密裏に撮影・国外輸出されてきた。2010年には撮影中に逮捕、収監されながらも映画制作を続けているという経緯がある。「投獄された時は独房でいろいろなことを考えました。映画を作るためには、刑務所に入らなければいけないのか、とか」と語ったラスロフ監督は、第77回カンヌ国際映画祭での審査員特別賞受賞を振り返り、「受賞後はイランに戻ったのですが、抑圧もありますし、たくさんのプレッシャーももちろんあります。懲役とか自分の持ち物をとられたりとか…、とにかく注目されるんです。でも、(映画)監督たちは、直接的にあの体制と向き合い、チャレンジして自分の言いたいことは言ってしまう、そういう道に入っているのだと思っています」と、イランで映画を作ること、自身がどのような心境で映画作りに臨んでいるのかを解説していた。呉監督は黒澤明作品に関しては映画作りを学んだ大林宣彦監督からの話や、大林監督が手がけた黒澤明監督の映画のメイキングに触れ、「画作りみたいなものは到底真似できないような、素晴らしい画を常に紡がれていらっしゃる」とした上で、「『自分が作る映画のなかではほんの2、3箇所くらい、これは映画だなと思う映画が撮れたら十分だ』という言葉と、もう一つ印象的な言葉として『映画は世界を平和にする』というのがあります」とコメント。「『映画は世界を平和にする美しさと力がある』と常に言っていらっしゃったみたいなのですが、本当にいま、私もこの年齢になって、改めてその通りだなと思っています」と続けた呉監督は「日本という国にいながら海外の映画を観た時に、自分がその国にいてその国の人たちになったような気持ちになって共感します。日本だけじゃなく、世界、未来に向けて平和を願い祈るという気持ちが持てる映画が私は好きなので、まさにその根幹にある映画をずっと作られた方だなと、黒澤明監督に対して、いつも尊敬の念を抱いています」と敬意を表していた。第39回東京国際映画祭(TIFF)は、日比谷、有楽町、丸の内、銀座地区を中心に10月26日から11月4日(水)まで開催。合計204本の映画が上映される。取材・文/タナカシノブ

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