80年不変、憲法の今後◆改憲論議のあるべき姿を有識者に聞く

日本国憲法は11月3日に公布から80年を迎えた。高市早苗首相がこれまで一度も実現していない憲法改正に意欲を示す中、あるべき改憲論議とはどのようなものなのか。日本政治が専門の境家史郎東大教授は、「戦争か、平和か」という対立の枠組みから脱却するよう主張。憲法学の木村草太東京都立大教授は、現実的な課題として参院の合区解消を挙げた。(時事通信政治部 原野琳太郎) ◇境家氏「現実との整合性高めよ」 ―憲法が改正されなかった理由は。 憲法が80年間、一言一句変わらなかったのは国際的に極めて希有(けう)だ。国民の強い護憲意識があったからだという説明があるが、ずっと疑問を感じている。戦後の世論調査を分析すると、改憲反対派が賛成派より明確に多かった時期はそれほど長くない。 ―なぜ改正されなかったのか。 他国と比較して、日本国憲法が非常に簡潔に書かれていることがある。解釈の余地が広く、多くを法律に委ねている。だから、時代の変化に応じて制度を変更しなければならないときでも、法律を改正すれば済む。 もう一つは解釈改憲だと疑われるような大きな変更を国民が受け入れてきたこと。自衛隊創設時には憲法学者の主流派は違憲だと言った。しかし、国民は自衛隊をだんだん受け入れた。日本人が憲法を大好きだったからというより、あまり関心がなかったからだ。 ―改憲は今後も実現しないか。 憲法と現実を整合させなければいけないという問題意識は、政治家、官僚、学者のレベルで強く持っている。有権者に関心がないのは自然だ。日常の生活にあまり影響しないからだ。だから、問題を解消するには、政治の側がイニシアチブを取らなければいけない。改憲の国会発議まで行けば、有権者も初めて意識を高める。 ―高市政権下での改憲の可能性は。 首相は改憲に積極的だ。「押し付け憲法」を少しでも変えたいというのが伝統保守派の思いだ。それに連立政権の組み替えは大きい。公明党は改憲容認勢力に分類されながらもブレーキをかける存在だったが、日本維新の会はアクセル役だ。国民民主党、参政党など、野党にも改憲に積極的な勢力は多く存在している。国会の勢力図を見れば、改憲が現実の政治日程に上がる可能性は以前に比べて高まっている。 ―改憲案が具体化すれば、世論はどう反応するか。 これまでの世論の動きからすると、改憲が具体化する段階で賛成が減る傾向がある。総論では賛成でも、例えば9条2項をどう変えるかという各論になると、やはり違うと考える人が出てくるからだ。そもそも改憲に絶対反対という人も、絶対に実現すべきだという人も少ない。 ―自民党と日本維新の会の連立合意に9条改正が盛り込まれた。 安全保障上の必要性から9条を改正しなければならないという考えは、本音のところでは、与党側にはあまりないのではないか。現状でも政府は9条をかなり幅広く解釈し、防衛費の増額や集団的自衛権の限定的な行使を認めている。9条が政府の政策遂行の足かせになっているわけではない。むしろ9条改正は、表立って主張されるかはともかく、占領下で制定された憲法を自らの手で変えたいという、保守派の伝統的なイデオロギー上の目標として位置付けられている面が強い。 ―緊急事態条項や緊急政令の創設には慎重論も根強い。 緊急事態条項があるから問題だということにはならない。多くの国に存在しており、具体的にどういう条文にするかという各論で議論すべきだ。例えば、国会議員の任期延長などは、平時から検討しておくべきだろう。 何の備えもないまま有事が起きれば、統治機能が失われるか、国家権力が統制されずに行使されるかのどちらかになりかねない。原則的に反対するのではなく、どうすれば有事にも機能的で民主的に統制された統治システムを維持できるかを考える必要がある。 ―国会の憲法論議に注文は。 何が不満かというと「戦争か、平和か」という対立の枠組みで議論されがちなことだ。この立て付けは憲法論としてあまり本質的ではない。「立憲主義か、非立憲主義か」という立て付けであるべきだ。憲法の本来の目的は権力を制限することにある。立憲主義の確立だ。 既に存在している軍事的な組織を、憲法でどう統制するかという議論の仕方が憲法論としては本筋だ。多くの憲法学者が安全保障法制を違憲だと言っている。その状態で10年ぐらいたっている。それでいいのか。憲法と現実の整合性を高めるべきだ。自衛隊をやめて丸腰の国になるか、自衛隊を残して憲法を(現実に)寄せ、いったん立憲主義を確立するかだ。

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