スターマー英首相「テロは変わった」 過激化阻止プログラムの改善を指示、サウスポート事件受け

イギリスのキア・スターマー首相は21日、昨年7月末から8月にかけてイギリス各地で暴動が相次ぐきっかけになった、イングランド北西部サウスポートのダンス教室襲撃事件に言及し、「テロリズムは変わった」と述べた。また、イギリスが過激な暴力からの「新しい危険な脅威」に直面していると話した。 この事件では、アクセル・ルダクバナ被告(18)がアリス・ダシルヴァ・アギアールさん(9)、ビービー・キングさん(6)、エルシー・ドット・スタンコムさん(7)の3人を刃物で殺害した罪に問われている。ルダクバナ被告は20日の公判で、殺人3件、殺人未遂10件、テロ関連の罪状2件についていずれも有罪を認めた。 判決は23日に言い渡される予定。 被告は事件前、イギリスの過激化阻止プログラム「プリヴェント」で3回、照会されていた。 政府はサウスポートの事件について、事実関係の公開調査委員会を開くと発表。首相官邸での記者会見でスターマー首相は、国家が市民の安全確保に失敗したのは「明白だ」と語った。 また、法改正が必要な場合はそのようにすると述べた一方、この事件の背景に関する隠蔽(いんぺい)はなかったとした。 スターマー首相は、「我々の反過激主義システム全体の見直し」を行うと説明。新たに「プリヴェント」の委員に任命された超党派の上院議員アンダーソン卿に、「このシステムを監視し、その最も暗い部分に光を当てる」よう依頼したと付け加えた。 スターマー首相は、過去には武装組織アルカイダのような高度に組織化された組織が主な脅威だったが、新たな脅威は「孤立した人物、社会不適合者、自室でインターネット上の情報に触れる若い男性による」過激な暴力行為だと警告した。 また、事件の詳細については攻撃後に知っていたが、法廷侮辱罪の法律により早期に公開することができなかったと述べた。 首相は、「もし私や他の誰かが、警察が捜査している間、事件が構築されている間、判決を待っている間に重要な詳細を明らかにし、この裁判が崩壊していたら、この犯罪を犯した卑劣な個人は、自由の身で逃げていただろう」と語った。 イヴェット・クーパー内相は、ルダクバナ被告に関する調査では「若者の暴力と過激主義の増加という広範な課題」も考慮すると述べた。 クーパー内相によると、昨年には学校での殺人に関する懸念から、162人が「プリヴェント」に紹介されたと述べた。 また、ルダクバナ被告には暴力の前科があり、当時17歳であったにもかかわらず、アマゾンで簡単に刃物を注文できたと述べた。また、被告が10回以上、ナイフを所持していたと認めたことも明らかにした。 ルダクバナ被告については事件以前に、毒物リシンを生成したほか、アルカイダの訓練マニュアルを所持していたことも分かっている。 それにもかかわらず、警察は同被告の事案をテロ関連に認定していなかった。被告はイスラム主義や人種差別といったイデオロギーに従っているようには見えず、過激な暴力への関心によって動機付けられていると思われていたためだった。 ルダクバナ被告は、2019年から2021年の間に3回「プリヴェント」で照会された。また、2019年10月に13歳で学校を退学処分となった後、同年12月にホッケースティックを持って学校に戻り、生徒を襲って手首を骨折させた。 ランカシャー児童保護パートナーシップによると、ランカシャー警察は2019年10月から2022年5月の間に、被告の行動に関する懸念から、被告の自宅住所にを5回訪問したという。 さらに被告は以前、英児童虐待防止協会(NSPCC)が提供する相談窓口「チャイルドライン」に何度も電話をかけ、最終的には、人種差別的ないじめを受けたために学校にナイフを持ち込むつもりだと伝えていた。 スターマー首相は、ルダクバナ被告が「プリヴェント」の介入基準を満たしていないと判断されたことは「明らかに間違っていた」と述べ、サウスポートの被害者家族を失望させたと語った。 首相は、サウスポートの事件は「明確な一線を画すべき」であり、公的調査では「何も除外されない」と述べた。 そのうえで、どの政府機関も「その失敗から目をそらすことは許さない。今回、政府が失敗したことは明白だ」と付け加えた。 スターマー首相がルダクバナ被告の有罪答弁後にこうした声明を発表したのは、この「野蛮な」攻撃を認識するとともに、同被告に対する国の対応の失敗や、この事件に対する社会の反応の激しさを認めるためだ。 特に、事件が法廷に持ち込まれる前に、被告に関する情報を持っていた当局についてもっと率直であるべきだったという指摘を払拭したいようで、被告の動機を「隠蔽」していたという主張を否定する発言もあった。 政府からテロ対策法の独立調査を委託されていたジョナサン・ホール弁護士は、イデオロギーではなく暴力に執着する人々に対応するため、「プリヴェント」とメカニズムの見直しが必要だと述べた。 ホール氏はBBCラジオ4の番組「トゥデイ」で、「プリヴェントが本来目的としていない人々をどうやって見つけるか、誰かがそれを検討してくれることを望んでいる」と語った。 「インターネットという主要因によって、現在の形式に変更が必要になった」 最大野党・保守党は、攻撃を防ぐための機会が見逃されたかどうかを調査で明らかにしたいと述べた。 クリス・フィリップ影の内相は、サー・ウィリアム・ショークロスがまとめた「プリヴェント」に対する勧告を、政府が実施することを望んでいると述べた。また、事件後に当局がソーシャルメディアでの憶測を避けるため、もっと情報を公開すべきだったかについても調査するよう求めた。 事件をめぐっては、ルダクバナ被告の身元について偽情報がオンラインで拡散。イギリス生まれの被告について、小型ボートでイギリスに入り難民資格を申請していたという偽情報が広がり、不法移民に抗議する集団による暴動がイギリス各地で起きた。 一連の暴動で約1200人が逮捕され、400人以上が起訴された。数十人が有罪となり実刑判決を受けた。 (英語記事 'Terrorism has changed', says PM on Southport attacks

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