ジョニー・ハンフリーズ、カラ・オニール 昨年7月末から8月にかけてイギリス各地で暴動が相次ぐきっかけになった、イングランド北西部サウスポートのダンス教室襲撃事件の公判で、裁判所は23日、アクセル・ルダクバナ被告(18)に対して最低52年の実刑判決を言い渡した。被告はすでに殺人罪などについて有罪を認めていた。 リヴァプール刑事法院のグース裁判長は、幼い少女3人を殺害し10人を負傷させた被告について、その行為は「サディスティック」かつ「衝撃的」で「ひたすら凶悪」だったとして、「法廷で証拠を聞いた大勢は、被告の行動を凶悪と呼ぶかもしれない。それに異論はあり得るだろうか」と述べ、最低52年間の禁錮刑を言い渡した。 ルダクバナ被告は量刑言い渡しに先立ち、被告人席で「気分が悪い」と主張し救命医を要求するなどしていたため、退廷を命じられていた。被告は20日、実質審理が始まる前にいきなり罪状について有罪を認めていた。 昨年7月29日の事件について被告は、サウスポートのダンス教室でアリス・ダシルヴァ・アギアールさん(9)、ビービー・キングさん(6)、エルシー・ドット・スタンコムさん(7)を刃物で殺害した罪について、20日の法廷で有罪を認めた。子供8人と大人2人に対する殺人未遂計10件についても有罪を認めたほか、公の場での刃物の所持、生物兵器取締法違反(猛毒リシンの生成)、対テロ法違反(イスラム組織アルカイダの訓練マニュアル所持)についても、有罪を認めた。 (この記事では事件に関するつらい内容の記述が含まれます) 法廷では、ルダクバナ被告による犯行の詳細が初めて証拠として提示された。その中には、事件現場となったダンス・スタジオの外から撮影した防犯カメラや車のドライブレコーダーによる映像も含まれた。 ディアナ・ヒーア検事によると昨年7月29日午前11時45分過ぎ、米人気歌手テイラー・スウィフトさんをテーマにしたダンスのワークショップで子供たちが座り、スウィフトさんの曲に合わせて歌いながら仲良しブレスレットを作っていたところ、侵入してきた被告が次々と子供たちを刃物で刺した。 検察は、逮捕された被告が警察署に連行される最中に自分の犯行について自慢し、「子供たちが死んでうれしい」などと口にしていたことも明らかにした。 調べによると、被告は同日午前11時10分にサウスポート近郊のバンクス村にある自宅にタクシーを呼び、ダンス教室の住所を運転手に告げた。 検察は、被告がタクシー運転手に住所の建物はどれか尋ね、料金を払わないままタクシーを降りる映像を法廷で再生した。 タクシーのドライブレコーダーは引き続き、被告が建物の1階にあるダンス教室に入っていく様子を撮影していた。ダンス・スタジオには、子供26人のほか、教室主催者のリアン・ルーカスさん、その同僚で友人のハイディ・リドルさんがいた。 検察は、現場の様子を撮影したこの動画を法廷で再生。被告が建物に入って間もなく子供たちの悲鳴が聞こえ、その音は法廷内にも響いた。子供たちが建物の外に走り出てくる様子も映し出された。被害者の家族は傍聴席で涙を流していた。 検察は、少女3人がよろよろと建物の外に出て路上で倒れる映像も再生。3人のうち1人が、死亡したアリス・ダシルヴァ・アギアールさんだった。アリスさんは重傷を負った状態で建物の外に出て、自分の子供を迎えに来ていた女性の車の横で倒れた。 ダンス・スタジオの中では、122カ所を刺されたビービー・キングさんと、85カ所を刺されたエルシー・ドットさんが倒れていた。 ハイディ・リドルさんは子供1人と教室外のトイレで、鍵を閉めて隠れていた。リドルさんは後に、子供たちが被告に攻撃をやめるよう懇願する声が聞こえたため、逃げられなかった子供たちがいることに気づいたと話した。 警察は午前11時59分前に現場に到着。警官3人と窓拭き業者のジョール・ヴェリテさんが建物に入ると、ナイフを手にビービーさんの遺体のそばに立つルダクバナ被告を発見した。 警官のボディカメラ映像には、ビービーさんの傷を見たヴェリテさんが衝撃と恐怖で叫びながら、被告を床に押さえつける様子が映っていた。 その後まもなく、リドルさんと一緒に隠れていた子供が、出てきても大丈夫だと警官に言われて、恐怖と安心で声を上げて泣く様子が、法廷に映し出された。 ■「弱い者を痛めつけようと」 検察によると、被告に刺されて負傷した7歳少女は、逃げようとしたところを被告に引き戻され、何度も刺された後、外の道路に出て倒れた。 ヒーア検事は、この少女の母親の声明を法廷で朗読。それによると、女の子の父親は自分の娘に起きたことで「打ちのめされ」てしまったし、「私たちの娘は、自分の体へのひどく暴力的で激しい攻撃を経験しただけでなく、あまりにも恐ろしい光景を目にしてしまった」のだと母親は書いた。 自分も刺されて負傷した教室主催者のルーカスさんは、満員の法廷で声明を読み上げながら、傍聴席にいる被害者やその家族を見つめた。 「(被告は)私たちが女性や少女だから、攻撃しやすい簡単な獲物だから狙ったのです」、「彼が常に、弱い者を痛めつけようとしていたと知ったけれども、それはまったく理解を超えている」とルーカスさんは述べた。 そのうえでルーカスさんは、「アリスとエルシーとビービー、ハイディと生き延びた女の子たち、私はみんなのために生き続けます」と強調した。 ヒーア検事は、ほかの被害者が受けた影響を説明する影響報告書も読み上げた。それによると、殺害された少女3人のうち2人の遺族は被告を「純粋な悪」と呼び、その犯行が自分たちに「絶え間ない痛み」をもたらしたと述べた。 スタン・レイズ公選弁護人は、被告が13歳までは「普通の子供」だと思われていたと陳述した。 「被告の行動に精神障害が寄与したことをうかがわせると法廷に提示できる、精神医学的証拠はない」ものの、「彼は普通で規律正しい子供から、衝撃的で無意味な暴力行為を実行できる者に変わってしまった」のだと、弁護人は述べた。 量刑言い渡しにあたりグース裁判長は、「ルダクバナがこれらの犯罪を実行する決意を固めていたことは確かで、できることなら子供26人全員を殺していただろう」と述べた。 裁判長は、一連の犯行が政治的、宗教的、またはイデオロギー的な目的を達成するために行われたものではないことから、テロリズムの法的定義には該当しないとの判断を示した。 その上で裁判長は満員の法廷に対し、「大事なのは、動機がテロリズムだったかどうかではない」として、「昨年7月29日に彼が行ったことは、全国的にあまりにひどい衝撃と嫌悪感を引き起こしたことから、極端な凶悪犯罪と見なされなくてはならない」と述べた。 「彼の責任と、意図的にもたらした危害は、最も甚大なものだった」と判事は指摘し、最低52年の禁錮刑を言い渡した。 公判後にエルシーさんの家族は声明で、事件に対応した救急サービスの関係者に感謝した。 「救急サービスの皆さんの勇気、思いやり、そして強さに感謝しています。すべての人を奮い立たせてくれるものでした」と、家族は述べた。 エルシーさんの家族はさらに、キア・スターマー首相、チャールズ国王、そして皇太子夫妻が個別に面会し、弔問してくれたことにも感謝した。 スターマー首相は、事件被害者の家族を「国全体が思いやっている」と述べ、「事件の生存者、被害者の家族、サウスポートのコミュニティに直接伝えたい。あなたたちは一人ではありません。私たちはあなたたちの悲しみに寄り添います」と強調した。 「サウスポートで起きたことは悲惨な事件で、裁判長が述べたように、この卑劣な犯罪者はおそらく二度と釈放されることはない」とも首相は述べ、「事件は、この国の歴史で特に悲惨な出来事のひとつだった。これを経て、罪のない幼い少女たちが、そして事件によって影響を受けたすべての人が、与えられて当然の変化を実現することが、私たちの責務です」と述べた。 事件当日にサウスポートで開かれた住民の集会は静かなものだったが、ルダクバナ被告の身元について偽情報がオンラインで拡散し、暴動につながった。 ルワンダ出身の両親のもとイギリス・カーディフで生まれた被告について、小型ボートでイギリスに入り難民資格を申請していたという偽情報が広く拡散し、不法移民に抗議する集団による暴動がイギリス各地で広がった。 一連の暴動で約1200人が逮捕され、400人以上が起訴された。数十人が有罪となり実刑判決を受けた。 (英語記事 'Evil' Southport killer jailed for minimum 52 years)