「 …一切の政治活動を禁じる…我々は万歳をしなければ。万歳!万歳!」。躊躇することはなかった。非常戒厳宣言から1時間ほど過ぎた午後11時46分、全光焄(チョン・グァンフン)牧師は自身のユーチューブで布告令1号を読みながら万歳を叫んだ。 12・3戒厳宣言に歓呼した国民は何人いるだろうか。その時間、戒厳軍は国会を包囲して市民と対峙した。議員らが緊迫感の中で国会に入る姿が生中継された。その時、全牧師は尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の戒厳令を歓迎した。議員らが本会議場に入ると、「その人たちをみんな逮捕しなければいけない。整理しなければ大韓民国に希望はない」と声を高めた。 尹大統領弾劾政局で全光焄牧師の勢力が注目されている。彼はソウル光化門(クァンファムン)広場付近で「太極旗(韓国の国旗)集会」を主導している大韓民国を正す国民運動本部(大国本)議長であり、サラン(愛)第一教会(ソウル長位洞)の牧師だ。 ◆戒厳は「怪談」→「以前からやるべきだった」 当初、全光焄牧師は戒厳令を民主党の政治工作だと非難していた。昨年9月の集会で民主党が提起した戒厳疑惑に対し「大統領を揺さぶろうとする嘘の怪談であり、国民に対する詐欺だ」と主張した。ところが尹大統領が実際に戒厳令を宣言すると、「もっと以前からやるべきだった」と言葉を変えた。 尹大統領が述べた「反国家勢力」の反対側にある、いわゆる「愛国市民」の頂点にいる人物が全光焄牧師だ。尹大統領を支持する熱烈支持層のデモと集会の様相を理解するには、全牧師の個人の履歴だけでなく彼が構築した人的物的ネットワークを見る必要がある。 ◆左派集会に劣らない愛国市民の浮上 先月28日、光化門で開かれた集会には予想以上に多く市民が集まった。当時、光化門一帯に尹大統領の弾劾を支持する集会、反対する集会が1キロの距離を置いて開かれた。「尹錫悦即刻退陣」を求める集会参加者は警察の推定で3万5000人だった。 弾劾に反対する大国本側の集会には4万人(警察推定)が集まり、世宗(セジョン)大路を埋めた。8年前の朴槿恵(パク・クネ)大統領弾劾当時のろうそく集会で数的に劣勢だった太極旗集会と比較すると隔世の感がある。左派と動員規模が対等であるほど勢いづいた。 「愛国市民」が浮上したのはこの時だった。尹大統領は今年1月1日、「ユーチューブのライブ配信で苦労する姿を見守っている」「自由と民主を愛する愛国市民の皆さんと共にこの国を守るため最後まで戦う」という手紙を送った。ソウル漢南洞(ハンナムドン)大統領官邸の前に集結した愛国市民は全牧師の勢力、極右で呼ばれる熱烈ユーチューバー、そしてこれに追従する人たちだった。 尹大統領がこの人たちを「愛国市民」と呼称したのは、熱烈支持層と共にするという公開的な意思表示だった。中道保守性向の市民社会が距離を置いた、いわゆる極右勢力と同じ船に乗ったのだ。 弾劾反対集会と極右ユーチューブでは自らを「愛国市民」と自称するケースが増えた。尹大統領を守るという意味が加わりながらだ。集会現場には「私たちが尹錫悦」と書かれた横断幕が設置され、「民主党が内乱罪」という声はさらに高まった。尹大統領の支持率は上昇している。戒厳は国を救うためのものであり、原罪は従北反国家勢力にあるという「愛国」フレームが強まった。太極旗集会は愛国、救国の集会に姿を変えた。