人ごとではない経済冤罪 刑事弁護士への相談は必須=荒木涼子

大川原化工機事件、プレサンス事件など、経済事件で冤罪(えんざい)が次々と明らかになる中、その冤罪の大きな要因とされるのが「人質司法」だ。人質司法とは、捜査機関が容疑者や被告が無実を主張するほど長期間勾留し、自白を強要して有罪判決を勝ち取ろうとする手法のことを指す。長期勾留による精神的・肉体的な苦痛から早く逃れるため、捜査機関の筋書きに沿ったウソの供述をすることが少なくない。 2010年に厚生労働省の元局長が逮捕・起訴された「郵便不正事件」では、大阪地検特捜部による証拠改ざんだけでなく、ウソの自白の強要も明らかになった。検察を揺るがす事件ともなり、取り調べの録音・録画などの刑事訴訟法の改正にもつながった。 噴霧乾燥機の輸出で外為法違反に問われた大川原化工機事件では「人質司法」の犠牲者が、決して大物政治家や財界人、官僚だけでなく、一般の企業経営者やサラリーマンにまで及ぶことを知らしめた。経済活動のグローバル化に伴い、中小企業でも日々の経済活動において、外為法、税法、特許法、独占禁止法など各種法令に抵触する可能性を秘める。しかも、経済活動における犯罪は、「殺人事件の凶器・血痕」のような明確な証拠は少ない。捜査機関は、参考人の供述、容疑者・被告の自白の確保に血道を上げることになる。真面目に職務に励む会社員であっても、所属する組織が捜査機関に付け入るスキを見せれば、いつ、参考人や被疑者として「人質司法」の虜囚になってもおかしくはない。 ◇証言より調書を重視 憲法は第38条で自白の強要を禁止している。それにもかかわらず、捜査機関による「人質司法」が横行するのはなぜか。それは、刑事訴訟法321条の「特信情況」という規定が深く関わっている。証人の法廷での証言と、検察官の面前でとった「検察官面前調書(検面調書)」の内容が食い違った場合に、特に信用する状況があると認めた場合は、裁判所が検面調書を証拠採用できるという規定だ。これは、例えば、暴力団の下級構成員や企業の部下が法廷では組長や上司の報復を恐れて、正しい証言をできない可能性がある、という理屈に基づく。捜査機関内でも自白を取れるのが優秀な捜査官と評価され、自白重視にますます拍車がかかる。刑事訴訟法の改正で取り調べの録音・録画が始まったにもかかわらず、検事が被告を「検察なめんな」と恫喝(どうかつ)し、世間に衝撃を与えたプレサンス事件(21年)が発生するのは、こうした事情を如実に表している。

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