第41回サンダンス映画祭が2025年1月23日に開幕し、2月2日まで開催中だ。三度の飯より映画が好きな連中はこぞってユタ州のパークシティに詰めかけている。 スキーリゾート地での開催も残すところあと2回――2027年をめどに新天地での開催を目指して候補地選びが行われている。だが例年同様、今年の出品作品も食指をそそられるドキュメンタリーや期待の新人のデビュー作がもりだくさん。レッドカーペット級の話題作のプレミア上映もちらほら、これぞまさに「インディーズ映画」という渾身の低予算映画や、奇想天外なシロモノも見受けられる。実験的で何でもアリな作品を特集するNEXT部門には、精神的充足感を求める女性が(冗談ヌキで)椅子に姿を変えるという映画もある。 1月23日から2月2日までの会期中、ローリングストーン誌では映画祭の悲喜こもごも、いくらなんでもこれはナシという作品まで最新情報をお伝えしていく予定だが、編集部の注目作品や話題になりそうな作品20本をピックアップしてみた。ジェニファー・ロペスを起用したブロードウェイミュージカルの映画版から、危険をはらむ布教活動を追った実話に基づくドキュメンタリー、実録犯罪ブームに鋭くメスを入れた作品や、スライ・ストーン、ハウスミュージック、ピーウィー・ハーマンのドキュメンタリーにいたるまで、2025年サンダンス映画祭が待ち遠しくなる作品ばかりだ。 『Atropia』 ロサンゼルスから数時間ほど離れた某所、軍事演習目的で建設された人口の町アトロピア。一見どこにでもあるような中東の村のようだが、住人はみな役者で、持ち回りで様々な役を24時間フルタイムで演じている。アリア・ショウカット演じる女優の卵も、この町で役者業に精を出している――ブレイクの瞬間を待ち構えながら、ウェイトレスするよりは全然マシだ! そんな中、未来のメリル・ストリープは反乱分子役を演じる兵士(カラム・ターナー)と恋に落ち、やがて現実と虚構の境界があやふやになっていく。監督と脚本を手がけたヘイリー・ゲイツが、高い評価を得た2019年の短編映画『Shako Mako』の続編として製作したこの映画は、今年のドラマ部門でも要注目。共演にクロエ・セヴィニーとティム・ハイデッカー。 『Bubble & Squeak』 デクラン(ドラマ『ステーション・イレブン』のヒメーシュ・パテル)とドロレス(ドラマ『バリー』のサラ・ゴールドバーグ)の中年夫婦が、休日で某国を訪れる。ただし2人の目的は観光名所巡りではなく、密輸だ。それもこの地域では禁制品とされる、極めて違法なキャベツ[要検証]。そう、皆さんご存じのあのキャベツだ。異様なほど仕事熱心な税関職員(マット・ベリー)に逮捕され、その後も災難が続き、ほころび始めていた夫婦の絆が試される。劇作家エヴァン・トゥーヒーの映画デビュー作は、時代が求めるパラノイアと不条理を織り込んだラブコメとでも言おうか。共演にスティーヴン・ユァンとデイヴ・フランコ。 『By Design』 ダウンタウンのこじゃれた店の中央に置かれた、素朴な木製の椅子に目を止めた瞬間から、カミーユ(ジュリエット・ルイス)はそれがどうしても欲しくなる。たしかにかなり値は張るが、これほど美しい品物に心奪われたが最後、値札のようなくだらないものに何の意味があるだろう?! ところが翌日あらためて来店すると、椅子のひじ掛けには「売約済み」の札が。カミーユが購入することは叶わなくなった。彼女は代わりに、自ら椅子になることにする。家具と一体化すれば、それ相応の愛情と称賛をようやく得られるだろうと期待して。アマンダ・クレイマー監督(代表作に『Please Baby Please』)のアールデコ不条理劇は、ママドゥ・アティエ、ロビン・タニー、ウド・キア、サマンサ・マシス、ベティ・バックリー、クリフトン・コリンズ・Jr、ナレーター役のメラニー・グリフィスといった脇を固める豪華俳優陣も見どころ。 『Didn’t Die』 避けては通れないゾンビ軍団の攻撃の対処法は多々あるが――いつかその日がきますよ、皆さん!――ヴィニータ(キーラン・ディオル)の場合は、世紀末社会で人気のpodcastを運営して、日がなゾンビに囲まれて暮らす日常を話題にすること。記念すべき100回目に合わせ、ヴィニータは生まれ故郷から生放送することに。だが不幸にもちょうど同じころ、血肉に飢えた屍たちは突然変異で凶悪化し始めていた。監督兼脚本家ミーラ・メノンは画質の粗いモノクロ映像で撮影されたゾンビスリラーで、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』と『This American Life』を足して2で割ったら?という問いを突き付ける。ぜひともかぶりつきで見たい作品だ。 『If I Had Legs I’d Kick You』 人生踏んだり蹴ったり? そんな時はリンダにおまかせ。監督・脚本家を手がけたメアリー・ブロンシュテイン長編2作目ので主人公(ローズ・バーン)は、重病の子どもを抱え、夫は行方不明。セラピストにはコケにされ、車を停めようにも駐車場が見つからない。ワンオペ育児と日常生活のプレッシャーを称えたドタバタ劇を、ある映画評論家は「『ナイトビッチ』と『アンカット・ダイヤモンド』を足して2で割った作品」と例えた。控えめに言っても好奇心をそそられる。加えて、コナン・オブライエンとエイサップ・ロッキーが重要な役どころで出演しているのもポイント。