結城世成(せな)容疑者(23)田村龍斗容疑者(21)持続化給付金詐欺グループの指南役はオンラインカジノ運営に高級マンション居住 被害総額3億円以上か

新型コロナウイルスの影響で苦境にある中小・個人事業者を救済するために設けられた持続化給付金をだまし取る事件が後を絶たない。栃木県警が摘発した詐欺グループの指南役は、以前からオンラインカジノを運営し、東京都内の高級マンションに住んでいた。だまし取った給付金のうち指南役に8割、実行部隊に残りが入る仕組みで、県警は指南役が3億円以上荒稼ぎしたとみて裏付けを進めている。事業者の使い勝手を考えた簡素な手続きがあだとなり、詐欺が繰り返される事情も見えてくる。(根本和哉)

指南役自ら虚偽の書類用意

 不正受給を繰り返していたとみられるのは、1月に県警に逮捕された結城世成(せな)容疑者(23)=詐欺罪で起訴。県警によると結城容疑者は、無職の田村龍斗容疑者(21)=同罪で起訴、同県那珂川町=や無職の男(20)=同罪で起訴、同県日光市=らと共謀して申請名義人を集め、その口座に給付金を振り込ませていたとされる。

 捜査関係者によると、結城容疑者から手口の説明を受けた田村容疑者が実行部隊のリーダーとなり、無職の男らに名義を貸してくれる人物を集めるよう指示。無職の男らは自分の知人を誘い、実際には事業を行っていないにもかかわらず虚偽申請を行わせた。給付金のうち8割は結城容疑者、1割は田村容疑者、残る1割は無職の男らに渡っていたとみられ、名義人にも数万円の報酬を渡していたとみられる。

 虚偽申請にあたって重要となる、個人事業主を装い減収を証明する書類などは、全て結城容疑者が用意。田村容疑者らを通じて名義人に送られ、書類には架空の事業が記されていた。

 これまで県警は名義人のうち5人を特定して書類送検。田村容疑者がリーダーとなった不正受給は他に十数件、被害額は千数百万円程度とみられており、県警は残りの名義人の身元についても調べている。

給付金で豪遊?

 結城容疑者は他にも複数の人物に同様の手口を指南して計3億円以上を不正受給したとみられるが、田村容疑者以外の身元はまだ不明だ。捜査関係者によると、結城容疑者は給付金詐欺に手を染める前、オンラインカジノの運営や投資関連のセミナー開催などで多額の利益を得ており、インターネットの世界では有名人だったという。

 逮捕時には東京都目黒区内の高級マンションに住んでいたほか、結城容疑者のものとみられる会員制交流サイト(SNS)のアカウントには、高級ホテルに滞在する姿や高級レストランの料理、高級外車、海外旅行の写真などが多数投稿され、金回りの良さをアピールしていた。都内や出身地の仙台市で飲食店経営も手がけ、幅広く稼いでいたとみられる。

 関係者によると、こうした様子を見た田村容疑者が、結城容疑者に近づけば金もうけできると考え、数年前にSNSを通じて結城容疑者に連絡し、関係が始まったという。結城容疑者が指南した他の人物も金もうけ目的で近づいてきていた可能性があり、県警は関係先から結城容疑者のパソコンやスマートフォンなどを押収し、共犯者の特定などを進めている。

事業者重視で簡素な手続き

 不正受給が相次ぐ背景には手続きの簡素さがある。昨年5月にスタートした持続化給付金は中小企業に最大200万円、個人事業主に最大100万円が支給される。申請に必要な書類は前年度の確定申告書類、売り上げ台帳など減収を証明できる資料、通帳の写し、本人確認書類と少なく、申請から給付まで早ければ2週間程度とスピーディーだ。

 警察庁のまとめによると、昨年12月24日時点で、全国の警察に計279人が摘発された。逮捕容疑となっている被害総額は約2億1200万円に上るが、実際の被害はこれを大きく上回ることは確実だ。

 摘発が相次ぐにつれ、給付金の自主返還の申し出などが全国の警察や消費生活センターに相次いでいる。中小企業庁によると、持続化給付金の返還件数は今月4日時点で全国で9410件、返還額は100億6500万円にも上る。

 しかし、不正受給した段階で詐欺罪は成立し、自主返還しても刑事罰を受ける可能性が高い。捜査関係者は「自分の名義で受給申請している時点で立派な犯罪。不正受給を依頼された段階で断るべきだ」と話している。

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