広島県竹原市の大久野島で起きた動物愛護法違反事件は、人になれたウサギが危害を加えられるリスクを浮き彫りにした。誰も管理していない環境下で、人が密接に触れ合える状態にある限り、再発の可能性は否めないと専門家は指摘する。観光地化が進む「ウサギ島」の在り方が問われている。 「いつか起きるのではないかと心配していた」。同島でウサギの撮影を長年続ける熊本県のカメラマン(49)は漏らす。1月21日に会社員の男(25)がウサギ1匹を蹴る瞬間を目撃し、取り押さえた。 動物愛護法違反容疑で逮捕された男は、竹原署の調べに昨年10月から同島を複数回訪れて蹴ったと供述しているという。同島では昨秋から99匹の死骸が確認され、同署が関連を調べている。 同島では餌やりなどウサギに近くで触れ合える環境にファンが増え、2023年には約20万人が訪問。観光地として注目されている。ただ、カメラマンはウサギが脚を踏まれたり耳をつかまれたりした場面に遭遇したことを挙げ「距離が近過ぎる」と危惧する。安全確保に向けた対応の必要性を訴える。 瀬戸内海国立公園の一部である同島の管理は環境省が担っている。ただウサギは外来種で1970年代に島外から持ち込まれて繁殖したとみられ、管理はしていない。現在は500匹超が生息。草木を食べ、人からの餌に依存する個体も多い。 「本来なら望ましくない状態」。中国四国地方環境事務所の担当者は言い切る。だが、地元の竹原市や民間事業者が観光資源として地域振興に活用する現状を踏まえて容認しているという。 同島のウサギの状況に詳しい沖縄大の山田文雄客員教授(動物学)は、餌をもらえるため警戒心の薄い個体が多く、今後もトラブルが起きる危険性を指摘する。「観光資源として考えるなら、管理体制の構築を検討すべきだ。少なくとも餌やりを制限し、距離を保つことで不幸なウサギは減らせる」と話す。 実は島には「ウサギに触らない。手から直接、餌をあげない」などのルールがある。人とウサギの安全を確保するため、同事務所や市、関係事業者などが参加する会議が22年度につくった。観光客に呼びかけているが、浸透しきれていない。 今回の事件を受け、同会議ではルール順守の呼びかけを強めるとともに防犯カメラ設置など対策を検討するという。同事務所の担当者は「観光利用との適切な関係の在り方について考えていきたい」としている。