パラグアイのメディア企業がリリースした女囚AIチャットボットが話題を集めている。国際人身売買と組織犯罪の罪で実際に服役しているエヴァのストーリーを語るチャットボットである。貧困の中、知らず知らずのうちに犯罪に荷担している女性の声を伝えるチャットボットにはジャーナリズムの一つの可能性が示されている。(小林 啓倫:経営コンサルタント) 上のスクリーンショットは、ある女性被告人とのチャット画面を保存したものだ。実際のチャットはスペイン語で行われているのだが、翻訳サービスDeepLを活用し、画面ごと日本語に変換している。 彼女の主張によれば、彼女は犯罪行為に加担したつもりはなく、全くの無実の罪で投獄されているのだという。会話はスペイン語でしか行えないが、興味があるという方は、こちらのリンクから実際に試してみることができる。 ただしこのチャット相手は、本物の人間ではない。ご想像の通り、これはAIが会話の相手をしてくれるというサイトだ。とはいうものの、ある意味では実在の人物だと言えるかもしれない。 それはなぜか。実はこの「エヴァ」、パラグアイ・アスンシオンにあるブエン・パストール刑務所に収監されている、実在の28歳の女性をモデルにしている。匿名性を守るために名前は偽名となっているものの、逮捕・収監されているのは事実で、とある犯罪容疑で判決を待っている状況だそうだ。 実際に会話を進めてみると、エヴァは「国際人身売買と組織犯罪の罪に問われているが、私はむしろ被害者だ」「犯罪で得た資産はない」と釈明するだけでなく、逮捕に至った状況について、「経済的な不安から仕事を探していたときに、不審な人物から仕事を頼まれた」「その人に『何も問題ないから』と言われて、アスンシオンからヨーロッパの都市までコカインが詰まったスーツケースを運ばされた」と克明に語ってくれる。 また、「ペドロ・ファン・カバリェロ(※パラグアイの都市で、麻薬密輸の中心地であるとのこと)で生まれ、そこで両親と息子と一緒に暮らしていた」「数年間ベビーシッターとして働いており、子供たちと仲良く過ごしていた」「映画を観に行くのが大好きだった」などと、身の上も語ってくれる。 仮に釈放されたら、エヴァは「女性の権利のために、そして女性の義務のために戦いたいと思っている」そうだ。