上がらぬ給料に、終わりの見えない物価高騰――。限りある資産のなかで、どんなことにお金を使えば、私たちは幸せになれるのだろうか。合理的な「お金の使い方」について、お伝えする。 ■お金を合理的に使えない人は搾取される 近所のスーパーに自動レジが導入されたときのことです。最初は使い方がわからない人が多かったためか誰も利用せず、数を減らされた対面レジには長い列ができていました。しばらくして操作に慣れると、今度はみんなが自動レジを使うようになりました。すると不思議なことに、対面レジには誰もいなくなったのです。 その日も自動レジは長い行列だったので、私が空いている対面レジで精算していると、小学生の男の子を連れた父親が後ろに並びました。おしゃれなジャケットを着て、ブランド物の革のバッグを持った父親は、自動レジの長い列を見て、「あんな大人になるんじゃないぞ」と子どもに言いました。 新刊の『親子で学ぶ どうしたらお金持ちになれるの?』(筑摩書房)のアイデアは、この出来事から生まれました。この父親が言いたかったのは、「みんなが並んでいるからといって、なにも考えずにその列のいちばん後ろに立つような大人になるな」ということでしょう。ゲームのルールを「できるだけ早く買い物の精算をしてスーパーを出ること」だとすれば、誰もいない対面レジを利用したほうがいいに決まっているからです。 社会的な動物は、仲間と同じことをすると安心できます。アフリカのサバンナでは、仲間から外れたところにいる草食動物は、ライオンなど捕食者の格好の餌食になります。目立っている相手は狙いやすいのです。 弱い生き物が身を守る術(すべ)として進化させたのが、群れの中に紛れて身を隠す習性で、これが人間の同調性の起源でしょう。だからこそ、みんなが対面レジに並んでいると自動レジには近づかず、逆に自動レジに長い列ができていると、無意識にその列に並ぼうとするのです。 こうした同調性は、多くの場合、よい結果をもたらします。「みんながやっている」ことは、たくさんの人間が試行錯誤して、最もうまくいった方法である可能性が高いからです。 とはいえ、みんなと同じことをしているだけでは成功できません。そこで重要なのが合理性で、スーパーの例でいえば、精算のルールを理解したうえで、どういう選択が最も費用対効果が高いのか(コスパがいいのか)を考えることです。 経済合理性とは、簡単にいうと「1+1=2」ということです。「そんなの当たり前じゃないか」と思うでしょうが、世の中には「1+1=3」と思っている人がたくさんいるし、1+1が100になると思っている人もいます。 経済学では、手数料率が50%と法外に高い宝くじは「愚か者に課せられた税金」と呼ばれています。宝くじを買うために100円支払うと、その瞬間に50円が徴収され、掛け金は50円しか残りません。世の中にこれほど割の悪いギャンブルはありませんが、それでも宝くじ売り場には行列ができています。宝くじの当せん確率や手数料率は調べればすぐわかるのですから、それを知ったうえで「夢を買いたい」と思うのはその人の自由ですが。 ビジネスも同じで、仕事のできる人は、課題を解決するときに、どうすれば最も費用対効果が高いかを考えます。この課題を解決するにはどんな選択肢があって、それをどう組み合わせれば最短でゴールに到達できるかをゲーム化できる人と、何も考えずにこれまでと同じやり方を続ける人の間で、「仕事格差」が複利で広がっていくのです。