「女子行員たちを裸にしてバリケード」「耳を同僚に削がせる」…日本史上最悪の籠城事件で凶悪犯が「密室」で行っていた「蛮行」…事件をモデルにした映画で射殺された犯人を演じた「俳優の名前」

「俺は精神異常やない。道徳と善悪をわきまえんだけや」 1979(昭和54)年1月26日午後2時30分、一攫千金を狙って大阪・住吉区の三菱銀行北畠支店に押し入った男は、予期せぬ誤算から同行内に籠城。行員2名、警察官2名を猟銃で射殺し、42時間にわたり密室の支配者となった。 男の名は梅川昭美、世にいう「三菱銀行人質事件」は史上最悪の籠城劇として語り継がれている。チロルハットにサングラス、スーツでキメた姿が「劇画の主人公気取り」と報じられたように、そのビジュアルも鮮烈な印象を残した。 テレビは閉ざされた銀行のシャッターを映し続け、視聴者を釘づけに。警察の動きや一部の人質開放、梅川が15歳のとき強盗殺人を犯していた過去、決行寸前に手を引いた共犯者の逮捕などがリアルタイムで流れていった。 そのころ梅川は女子行員たちを裸にしてバリケードとし、負傷した男子行員の耳を同僚に削がせるなどの蛮行を繰り広げ、ときには機嫌よく軽口を叩いていたという。そして母親の説得もむなしく28日午前8時41分、ついに密室の支配者は機動隊の特殊部隊によって射殺され、30年の人生を終えた。 大藪春彦のハードボイルド小説を愛し、映画『ソドムの市』を例に挙げながら銀行内を地獄と化した梅川昭美……世間を震撼させた事件の多くがそうであるように、三菱銀行人質事件も映画やテレビドラマといったフィクションの題材となっている。本稿では、その経緯をジャンル別に追っていこう。 まず事件から4ヶ月後の79年5月、早くも映画化されている。 タイトルは『現代性犯罪 暴行監禁』──字面から想像できるように18禁の成人指定作品、いわゆるピンク映画であり、斯界の巨匠・若松孝二が監督を務めた。 津山三十人殺しなど残虐事件をもとに数々の作品を送り出してきた若松らしい企画だが、舞台は銀行ではなく東北の農家。若松の自伝『俺は手を汚す』によれば「梅川の事件があって、どうしてもこれやりたくて、いろんなとこ持っていったんだけど銀行の関係があってダメで」という理由から農協、さらには農家に変更となった。 そのあたりは低予算のピンク映画という事情もあるだろうか。ソフト化されておらず再上映の機会も少ないので未見だが、いくつかの資料をもとに『現代性犯罪 暴行監禁』のストーリーを解説しよう。 めでたい祝言の日、村長宅に猟銃を手にした男が乱入する。その目的は「べっちょ」。女たちを縛って凶行を繰り広げ、やがて警察に包囲されるが、男は皇太子妃との「べっちょ」を要求し……新左翼シンパの監督として一世を風靡した若松孝二らしく、事件に便乗しながらアナーキーな筋立てが用意された。 都会へのコンプレックスを抱えた犯人・種村を演じたのは山谷初男。当時40代半ばで丸っこい体型もモデルの梅川とかけ離れているが、若松の代表作『胎児が密猟する時』から13年ぶりに密室劇の主演を務めた。

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