(増沢 隆太:東北大学特任教授、人事・経営コンサルタント) ■ 被害額では測れない悪らつさ 物価高騰、とりわけ食料品のような生活必需品の値上げが全国民を苦しめています。野菜や農畜産品の泥棒は、今始まったものではないと思いますが、今、何が起こっているのでしょうか。こうしたニュースが、近ごろ目立っている気がします。 ◎集英社オンライン「〈キャベツ高騰、相次ぐ盗難〉逮捕された中国籍の2人組はなぜか不起訴…被害農家が怒り「警察も検察も野菜泥棒には本気を出してくれない」」(2025年2月5日) 2月初旬、愛知県で収穫前のキャベツ800玉が盗まれる事件が発生しました。 工場や事務所と違い厳重にカギをかけるのが難しい農地で、これまでも作物の盗難はあったのだろうと思いますが、この愛知県の事件での被害は重さにして約1トン。トラックなど周到な準備抜きに実現できるレベルではありません。 こうした農作物盗難は、被害額50万円以下、または10万円以下というものが総件数の1/3以上を占めています(令和元年農水省調査)。東海テレビのニュースによれば、上記のケースでの被害額は20万円程度ということです。 ◎東海テレビ「「人のやる事じゃない…」出荷直前のキャベツ約800玉盗まれる 生育不良で価格高騰の中 農家らは憤り隠せず」(2025年2月11日) 20万円という金額をどう見るか。野菜泥棒、作物泥棒の問題点の一つがこの被害金額の微妙さです。 この件とは別の盗難事件でこれまで被害を受けた農家からは、警察の動きがあまり積極的ではないという声が聞かれます。被害額で見れば確かにもっと大きな金額の損害を受ける盗難事件はあることでしょう。しかし作物泥棒事件の問題はそこではありません。 日本の食を支えるべく、手間暇かけて農家や生産者が育てた作物や家畜を、最後の最後に盗み出すという行為の悪らつさは、被害額では測れないほど深刻だと思います。作物泥棒は、生産者の心を踏みにじり、金銭以上に精神的ダメージを与える、きわめて悪質な犯罪だと思うのです。 まずは、野菜泥棒という犯罪を実行する側の心理から考察してみたいと思います。