「大崎事件」最高裁が裁判のやり直しを認めない決定 原口アヤ子さん(97)4度目の再審請求

殺人などの罪で服役した原口アヤ子さん(97)が裁判のやり直しを求めている大崎事件の第4次再審請求です。最高裁は「有罪に合理的な疑いが生じる余地はない」として、弁護側の特別抗告を退け、裁判のやり直しを認めない決定をしました。 この事件は1979年、大崎町で牛小屋の堆肥の中から男性(42)が遺体で見つかったものです。 男性の義理の姉の原口アヤ子さんは、殺人などの罪で有罪が確定し服役しましたが、一貫して無実を訴えています。 これまでの再審請求で3回、再審開始の決定が出ていますが、検察側が不服を申し立て、いずれも上級審で取り消されていました。 今回は4回目の再審請求で弁護側は、男性は酒に酔って側溝に転落し、頚髄を損傷したことによる事故死だとする医師の鑑定書などを新たな証拠として提出していました。 しかし、鹿児島地裁と福岡高裁宮崎支部は再審を認めず、弁護側はこれを不服として最高裁に特別抗告していました。 最高裁は、新たな証拠として出された医師の鑑定書について「直接検分したものではなく、腐敗が進行した遺体の一部のみが写った写真から見て取れる色調など限定的な情報から推論を重ねて結論を導いたもので、その証明力には限界があるといわざるを得ない」と指摘。「確定判決の認定に合理的な疑いを抱かせるに足りるものとはいえない」として、2審の決定を支持し、裁判のやり直しを認めない決定をしました。 また、共犯として服役した既に死亡している原口さんの元夫についても、最高裁は再審を認めない決定をしました。 なお、今回の決定は裁判官5人のうち4人の多数意見であり、学者出身の宇賀克也裁判官は「再審を開始すべきだ」とする反対意見を出していました。 約5年間に及んだ4回目の再審請求。これまでを振り返ります。 1979年、大崎町で、男性が自宅の牛小屋のたい肥の中から遺体で見つかりました。これが、のちの「大崎事件」です。殺人・死体遺棄の罪で逮捕されたのが、男性の義理の姉、原口アヤ子さんでした。 確定判決によりますと、原口さんは夫や義理の弟に犯行を持ちかけ、暴行を加えた後タオルで首を絞めて殺害。甥を加えた4人で遺体を牛小屋まで運び、堆肥の中に埋めたとされています。物的証拠は何もありませんでした。 原口さんは一貫して無実を訴えましたが、共犯とされた3人の自白が決め手となり、10年間服役しました。しかし、3人には知的障害があり、のちに「自白を強要された」と主張しています。 出所した原口さんは、裁判のやり直し「再審」を求めます。 (原口アヤ子さん) 「無実が解決するまで自分が健康でいる限り頑張って無実を晴らしたいと思っている」 最初の再審請求では、鹿児島地裁は再審開始の決定を出しましたが、高裁がこれを取り消しました。 3度目の再審請求でも地裁、高裁と裁判のやり直しを認めたものの、最高裁が取り消し、再審の重い扉が開くことはありませんでした。 2020年3月、原口さんは4度目の再審請求に臨みました。弁護団は「被害者がいつどこでどのように亡くなったのか?」。このポイントに焦点を当て新たな証拠を提出しました。 確定判決では、被害者は自転車ごと側溝に転落したのち近所の人が自宅に連れ帰り、その後、原口さんらが殺害したとされています。 これに対し弁護側は、被害者は転落事故の影響で頚髄を損傷し、殺害時刻にはすでに死亡していたと主張。連れ帰った近所の人の供述の信用性に疑問があるとし、これを裏付ける救命救急医の医学鑑定書などを新たな証拠として提出していました。 しかし2022年、鹿児島地裁は再審請求を棄却。弁護側は高裁に即時抗告しましたが、1年後。 (間世田桜子キャスター) 「不当決定と書かれています。原口アヤ子さんの44年に渡る無実の訴えはまたも裁判所には届きませんでした」 福岡高裁宮崎支部は新たな証拠について「確定判決の事実認定に合理的疑いを生じさせるものとはいえない」として地裁の決定を支持。 弁護団は「高裁の決定は明らかに判例に違反していて、重大な事実誤認をしている」として、最高裁に特別抗告していました。 またしても裁判のやり直しが認められなかった原口さんに支援者が結果を伝えました。また、弁護団も先ほど会見を開き「誠に残念な結果。憤りを感じる」と述べました。 (大崎事件支援者・武田佐俊さん) 「最高裁がまたしても訴えを棄却した。不当決定です。生きている限り勝つまで頑張ろうね。みんながあなたの味方です」 支援者から最高裁の決定を伝えられた原口さん。一つ一つの言葉にしっかりと耳を傾けていました。 (大崎事件支援者・武田佐俊さん) 「5人全員があなたの意見を再審を無視したのではなくて一人だけ再審を急ぐべきだという意見を述べたのは大きな希望ですよと伝えた。恥知らずの最高裁の決定だと思う。彼女の命が続く限り生きている限りにこの再審実現まで頑張りたい」 原口さんの弁護団も先ほど会見を開きました。 (大崎事件弁護団・森雅美団長) 「強力な鑑定にも関わらず超えることができなかった。誠に残念だし遺憾」 (大崎事件弁護団・鴨志田祐美事務局長) 「日本の刑事司法の現状を嘆かざるをえない」 一方、5人の裁判官のうち1人は「再審を認めるべき」と意見しています。 (大崎事件弁護団・森雅美団長) 「私たちが主張してきたことを集約した形で論理的に述べて再審開始決定を出している。アヤ子さんはあくまでも無罪ですし、宇賀裁判官の論理は正しいと信じている」 今回の最高裁の決定について、刑事訴訟法の専門家は疑問を感じざるをえないと指摘します。 (鹿児島大学・中島宏教授) 「これまでの再審請求でも出された証拠も含めた全ての総合評価を行う。これが過去の最高裁の判例の掲げた理解ということになっていてこれはもう確定した考え方なんですけれども今回の最高裁の判断は、この新旧すべての証拠の総合評価を正しく行っているかという点で、やはり疑問を感じざるを得ないというのが第一印象」 また、唯一反対した宇賀克也裁判官の意見については。 (鹿児島大学・中島宏教授) 「全てを丹念に検討して合理的な疑いが生じるということを導いた上で「疑わしいときは被告人の利益に」という原則が再審でも適用されるんだということこれも鉄壁の判例法理ですけれどもこれを忠実に展開して結論を示している」 現在の最高裁の考え方のもとでは再審開始の決定がなされるべき事件という見解を示しました。

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