アカデミー賞受賞なるか…伊藤詩織氏の映画「Black Box Diaries」協力者を無断でさらす隠し録画・録音の是非

自らが受けたという性被害の真相を追い、米アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞の候補となっている伊藤詩織監督のドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』(ブラック・ボックス・ダイアリーズ)。その海外公開版を見たジャーナリストの柴田優呼さんは「この映画の独特なところは、無断録音・録画で声や姿をさらされたのが、加害者側ではなく、伊藤氏に協力した善意の人たちであることだ」という――。 ■3月3日の米アカデミー賞授賞式で受賞の快挙なるか? 性被害を実名で訴え、日本の「(ミートゥー)」運動のきっかけを作ったジャーナリストの伊藤詩織氏が監督したドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』(ブラック・ボックス・ダイアリーズ)がもめている。アメリカのアカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞に日本人の作品として初めてノミネートされるなど、海外で高い評価を受けているが、3日3日(アメリカ時間で2日)のアカデミー賞授賞式を前に、いまだに国内で上映のめどがたっていない。 その背景に、かつて伊藤氏の裁判を支えていた元代理人弁護士たちが「許諾のない映像や音声を使っている」と批判していることがある。彼らは日本外国特派員協会で2月20日会見を開き、「伊藤氏は国内でこうした許諾問題が持ち上がっていることを、海外で説明していない」とも指摘した。 伊藤氏は同日会見を開く予定だったが、体調不良のため中止を決定。一方で、未許諾の映像や音声が含まれていたことを謝罪し、国内用と海外用に修正版を作ったという声明を出した。ただ、会見時に記者陣に公開する予定だった、これらの修正版を公にすることは見送られた。 『Black Box Diaries』は、伊藤氏が元TBS記者の山口敬之氏から性加害を受けたと訴え、刑事裁判では不起訴になったが、民事裁判で勝訴するまでの軌跡を追っている。伊藤氏自身の身辺で起きた出来事を記録する形で撮られており、セルフドキュメンタリーというジャンルに入る。なぜこの映画に、伊藤氏の味方だった弁護士たちがこれほど強く反発しているのだろうか。おそらくこの映画が、ドキュメンタリー映画としてもジャーナリスト活動としても、かなり異質のものであることが関係している。 ■隠し撮りや隠し録音が多いことをどう判断するか 『Black Box Diaries』の特徴としてまず挙げられるのは、隠し撮りや隠し録音を多く利用していることだ。伊藤氏自身、「隠せる所ならどこにでも隠して、小さな録音機を身につけていた」と映画の中で語っている。 隠し撮りや隠し録音、つまり許諾のない撮影や録音は、他のドキュメンタリー映画でもないわけではない。社会悪の追及を狙う直撃取材型のアクション・ドキュメンタリーではたびたび見かけるものだ。代表的な監督としてマイケル・ムーアはよく知られているし、日本にも原一男がいる。ホロコーストの証言を集めた『ショア』で、クロード・ランズマンは顔を出さないという約束を破って、元ナチスの男性の映像を使っている。こうした作品は論争を生んできたが、同時に賞賛も浴びてきた。

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