「この事件は冤罪」 絶望に近かった再審への道のり 福井中3殺害

福井市で39年前、中学3年の女子生徒(当時15歳)が殺害された事件で、殺人罪で服役した前川彰司さん(59)のやり直しの裁判(再審)が6日、名古屋高裁金沢支部(増田啓祐裁判長)で始まった。 「たった一つだけ、私が知っている真実があります。この事件は冤罪(えんざい)。私は犯人ではありません」。前川さんは法廷での陳述で、力を込めた。 前川さんは2003年に服役を終え、翌年から再審を求めてきた。「そのハードルはあまりにも高く、険しく、ほとんど絶望に近いものがあります」と振り返った。 法廷に座る検察官をじっと見つめ、「(再審公判に)適切に対応すると述べたのであれば、無罪を主張すべきだった」。そもそも起訴すべきではなかったとし、「私に対する偏った見方が大きな問題だった」と強調した。 逮捕から一貫して関与を否定し、一度は無罪判決が出たものの有罪が確定。1回目の再審請求はいったん扉が開いたが、検察の異議によって閉ざされる。40年近く、司法に翻弄(ほんろう)されてきた。 再審請求が認められたのは24年10月。父親に「(再審の扉が)開いたよ」と伝え、固く握手を交わした。ただ、悔いは残る。「39年にわたる長い年月を事件のために犠牲にした。人生のむなしさを覚えるのも正直なところです」 前川さんの弁護団は「無罪を信じた母は失意のまま亡くなり、父も高齢となっていることを考えると、一日も早く前川さんの無罪を確定させねばならない」と訴えた。 無実の訴えは多くの人が支えてくれた。24年12月には名古屋市で開かれた集会で登壇。支援者へ感謝を伝えるとともに「冤罪事件の救済を広げる後押しができた」と胸を張った。 「今、前を向いて歩いている自分がここにいます」。前川さんは今年に入り、就労支援事業所で検品などの軽作業を始めた。「少しずつ人間らしくなってきた」と社会復帰に向けて動き出している。「希望のともしびがあるのも事実」。7月の判決に期待を込めている。【阿部弘賢、国本ようこ】

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