すすきの首切断事件、父親の公判から思うこと 香山リカ

2023年、札幌市のすすきののホテルで男性が殺害され首を切断された事件で、逮捕・起訴された親子3人のうち、父親の裁判員裁判が1月14日から札幌地裁で始まっている。 その報道を見ながら、「『令和』と『昭和』が混じったような事件であり裁判」という印象を受けた。 「令和」の方は、父親の裁判で検察側の証拠調べでカギとなっているのは、押収された親子のスマホに残っている情報やネットの履歴ということだ。裁判では、殺害を実行したと考えられている娘の撮影した動画、母親と父親とのラインのやり取り、さらには父親のネットの検索履歴などが読み上げられたりしているようだ。また父親が自主的に撮影した動画、娘に頼まれて撮影した動画などもあり、そこでの様子も言葉で再現されたりもした。言うまでもないが、それぞれの携帯端末でラインやメールを削除しても、検察がプロバイダーに開示請求をかければすぐに履歴が出てくる。 もっともこれは「令和」になって始まったことではない。2012年つまり平成24年にある裁判員裁判を傍聴したのだが、そこでもプロバイダーが開示したと思われるメールが証拠として提示されていたのを覚えている。それは、俗に“婚活殺人事件”と呼ばれた事件の容疑者として起訴された木嶋佳苗氏の裁判であった。 私が傍聴した際に提示されたメールは木嶋氏から実の妹にあてて書かれたもので、婚活サイトで知り合った男性の前ではおだやかに振る舞っていても、妹に対しては男性をあざけりこき下ろすような文面を送っている、などと検察から指摘されていた。ただ、男性に不平不満だけではなく敵意まで抱くことがあるのは、相手が恋人や夫の場合でもよくあることだろう。いまはそれを匿名SNSで垂れ流す女性も多いが、平成の時代は妹などごく親しい身内にのみ伝えていたとしても不思議ではない、と思った。

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