噴霧乾燥機を中国に不正輸出したという外国為替及び外国貿易法(外為法)違反容疑で「大川原化工機」(横浜市)の大川原正明社長ら3人が2020年3月に逮捕され、翌年に起訴が取り消された事件をめぐり、後に同社より「虚偽の文書を作成した」などとして告発され、虚偽有印公文書作成・同行使などの疑いで書類送検されていた当時の警視庁公安部の捜査員3人について、東京地検は1月8日、不起訴(嫌疑不十分)とした。 これについて大川原化工機側は「警視庁と同じ捜査機関である検察庁の判断で刑事事件が打ち切られることには納得いかない。不起訴ありきで形式的に手続きが進められたのではないか」(逮捕された元取締役の島田順司さん)などと強く反発。検察審査会に起訴を求める審査を1月17日に申し立てた。 告発状、および同事件をめぐり現在行なわれている国賠訴訟の一審判決(23年12月=後述)などによると、当時取り調べを担当していた安積伸介警部補(現警部)は、弁解録取書(被疑者が逮捕直後に警察官や検察官に弁解した内容を記載した書面)の内容について、「事実と違う」と修正を求めた島田さんに対し修正したふりをして署名・捺印をさせた。島田さんがそれに気づいて抗議したため弁解録取書は作り直されたが、検察庁へ一緒に送られるべき修正前の書面はシュレッダーで破棄。部下の巡査部長は現場に立ち会っていた。 また、安積警部補の上司だった宮園勇人警部(後に警視に昇格、すでに退職)は立件にマイナスになるデータなどを外した虚偽内容の捜査報告書を作成した。噴霧乾燥機は液状の原材料に熱風を送り込んで粉末にする装置で、コーヒー粉末や粉ミルク、医薬品などの製造に使われるが、乳酸菌などを生きたまま粉末にすることができ、完全な殺菌ができるなら炭疽菌などの危険な菌を作業員が被曝せずに製造できる。そのため生物兵器の製造に転用される恐れがあるとの理由から輸出規制の対象とされ、警視庁公安部は大川原化工機の製品も、これに該当すると解釈。同社が経済産業大臣の許可を受けずに「兵器に転用できる形で噴霧乾燥器を中国に輸出した」として立件しようとした。しかし公安部の実験で、噴霧乾燥機には温度が上がらず殺菌できない部位があるとのデータが出ていた。 大川原化工機側の告発を受けた警視庁捜査2課は昨年11月、捜査を担当した3人を書類送検した。今回の不起訴について東京地検は「罪を認定することに疑義があり、事情を総合考慮した」としたが、不起訴の理由を明らかにしていない。警視庁は「地検の処分については答える立場にない」とする。