尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が逮捕から52日ぶりに釈放されたことは、韓国政界を揺るがす新たな火種になった。与党に近い保守派は一連の捜査などへの疑念をさらに強め、進歩派の野党は即時抗告せずに釈放を受け入れた検察を攻撃している。釈放された尹氏が「国民向け」ではなく、支持者や与党関係者らに感謝するメッセージを出したことも、陣営間の感情的対立をあおってしまった。憲法裁判所で大統領弾劾審判の結果が出ても、社会の混乱は続きそうだ。 ◇勾留期間満了後の起訴だった…… ソウル中央地裁が3月8日、勾留取り消しを認めた。検察による内乱罪での起訴が勾留期間満了の約10時間後にされていたことと、尹氏を逮捕した高官犯罪捜査庁に内乱罪の捜査権がないため「捜査過程の適法性に関する疑問の余地」が残ることの2点が理由とされた。 1月15日に逮捕された尹氏の勾留期間は24日までだったが、途中で令状関連の手続きがあったため延長された。手続きのため捜査資料を裁判所に提出している間、勾留期間のカウントが止まるという刑事訴訟法の規定があるためだ。 今回の場合、関連手続きを地裁が受理したのは17日午後5時46分ごろ、手続き終了で書類を捜査機関に戻したのが19日午前2時53分ごろだった。検察はこれを3日とカウントしたが、地裁は約33時間と考えるべきだとした。結果として勾留期間満了は26日午前9時過ぎだったのに、検察が起訴したのは同日午後7時前だったので、期間満了後の起訴になっていたと判断し、勾留取り消しを認めたのだ。さらに、こうした問題がなかったとしても捜査権に疑問の余地があるのだから取り消しが妥当だという判断を示した。 反発した検察は上級審への即時抗告を検討したが、断念した。同様に勾留を解くことになる保釈と勾留執行停止に対する即時抗告が過去に争われたことがあり、違憲判決が出ているからだ。保釈と勾留執行停止への即時抗告の規定は既に刑訴法からも削除されている。それを考えると、勾留取り消しという今回の決定に即時抗告しても勝ち目がないという判断だった。