【社説】検察の取り調べ 可視化広げ体質の改善を

容疑者への暴言や供述の不当な誘導など、検事による不適切な取り調べが相次いで発覚している。 検察トップの畝本直美検事総長は、取り調べの録音・録画(可視化)の対象を広げる方針を表明した。逮捕されていない人への任意の取り調べで試行するという。 刑事司法において検事は強大な捜査権限を持っている。組織として厳格な法令順守が不可欠だ。対象の拡大は当然のことである。 可視化は密室での自白強要などを防ぎ、主に裁判で供述の任意性を立証するために行われている。 2009年に裁判員裁判が導入されるのを前に、一部で始まった。19年には検察の独自捜査事件と裁判員裁判の対象事件で義務付けられた。 検察はこうした事件以外でも可視化を広げ、現在は9割以上で実施している。一方で、任意の取り調べの場合は限定的だった。 任意調べを巡っては、19年参院選の大規模買収事件で、東京地検特捜部の検事が元広島市議に不起訴を示唆して供述を誘導しようとしたことが明らかになった。 任意段階での可視化の試行は、組織として取り調べの適正化に取り組む姿勢をアピールする狙いもあろう。実際に取り調べが妥当だと証明できれば、検察側にプラスになることもある。 ただ効果については疑問も残る。検事の発言が問題となった大阪、横浜両地検のケースでは、可視化された中で不適切な取り調べが公然と行われていたからだ。 大阪地検特捜部が捜査した業務上横領事件では、検事が机をたたきながら「検察なめんなよ」「会社の評判をおとしめた大罪人」などと罵声を浴びせ続けた。大阪高裁は昨年、検事を特別公務員暴行陵虐罪に問う刑事裁判に付す決定をした。 横浜地検の検事は、逮捕されて黙秘権を行使した元弁護士に「お子ちゃま発想」「ガキだよね」など侮蔑的な発言を繰り返した。元弁護士は人格権の侵害に当たると訴え、東京高裁は先月、国に賠償命令を出した。 明らかに不当な言動が、検察内部で問題視されなかったところに事態の根深さがある。組織全体の人権感覚がまひしているのではないか。独善的で傲慢(ごうまん)とも指摘される体質の改善が急務だ。 その上で、適正化の本丸は冤罪(えんざい)を生む元凶となっている自白偏重の捜査からの脱却だと肝に銘じてほしい。 最高検は昨年12月、自白を得ることに過度に固執しないよう求める通知を全国の地検に出した。自白を引き出せないと評価されないといわれる検察組織のあしき伝統を、一掃しなければならない。 欧米など多くの国で、弁護人による取り調べの立ち会いが認められている。容疑者や被告人の権利として日本でも実現する必要がある。

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