環境保護をアピールするデジタル銀行として、レオナルド・ディカプリオを含む著名人から総額約6億ドル(約890億円)を調達したフィンテック企業、Aspiration(アスピレーション)の共同創業者で筆頭株主のジョセフ・サンバーグ(45)が先日、詐欺容疑で逮捕された。 サンバーグが2013年に共同創業したAspirationは、購入した商品の代金の一部を植林活動などの環境保護活動に寄付できるデビットカードを発行するデジタル銀行として始動した。カリフォルニア州を拠点とする同社の投資家には、ディカプリオに加えてドレイクやロバート・ダウニー・ジュニア、さらに元マイクロソフトCEOのスティーブ・バルマーなどの著名人が含まれていた。 Aspirationの評価額は、2021年にSPAC(特別買収目的会社)との合併を通じて上場を目指した際に、23億ドル(約3400億円)とされていた。しかし、同社のビジネスモデルは、当初の予想以上に収益化が難しく、新規顧客の獲得に苦戦した末に、上場計画を撤回。その後は、企業へのカーボンクレジットの販売に事業モデルを転換していた。 カリフォルニア州の検察は3月3日、サンバーグとAspirationの元取締役であるイブラヒム・アミーン・アルフセイニ(52)らが共謀して虚偽の書類を作成し、貸し手を欺いた容疑で逮捕したと発表した。サンバーグは、2020年に約5500万ドル(約82億円)、そして2021年に約1億4500万ドル(約215億円)を自身の株を担保に個人ローンとして借り入れたが、2回目に借りた1億4500万ドル(約215億円)のローンが返済不能となり、貸し手は全額を失ったという。 サンバーグは、20万ドル(約3000万円)の保釈金を支払って釈放されており、今月末に罪状認否を予定している。一方、共謀者とされるアルフセイニは、検察との司法取引に応じ、有罪を認めた。2023年にフォーブスの取材に応じたアルフセイニは、光ファイバー関連の投資で資産を築いた後に、5000万ドル(約74億円)をAspirationに出資したと述べていた。 ■ハーバード出身者2人が創業 かつて脚光を浴びたAspirationの転落の物語は、特にこのスタートアップが創業初期に掲げた「社会に前向きのインパクトを与える企業」というイメージを考えると衝撃的だ。サンバーグは、今から約12年前にハーバード大学の学生イベントで知り合った起業家のアンドレイ・チェルニーと共にAspirationを共同創業した。 チェルニーは、ハーバードを卒業した直後の1997年に当時のアル・ゴア副大統領のスピーチライターを務めた経歴を持つ人物で、公共政策関連の職務を経て、Aspirationの創業に関わり、2022年まで同社のCEOを務めていた。彼は昨年、アリゾナ州の民主党予備選に下院議員候補として出馬したが落選していた。 一方、カリフォルニア州出身で、シングルマザーの家庭で貧しい幼少期を過ごしたサンバーグも、公共サービスへの関心をアピールしていた。ハーバード大学を卒業後にウォール街で働いた彼は、ミールキットサービスのBlue Apron(ブルーエプロン)の創業投資家となった後に、スタートアップの世界に進み、「反貧困」の活動家として自らをアピールしていた。Aspirationの株式の35%を保有するサンバーグは、2年前のフォーブスの取材で、1億ドル(約149億円)以上を同社に投資したと述べていた。