米判事、政府が拘束した学生活動家の裁判移送を命令 政府の主張退け

米ニューヨークの連邦地裁は19日、パレスチナ出身でアメリカ永住権を持つ学生活動家マフムード・ハリル氏(30)がドナルド・トランプ政権の移民管理当局に拘束された問題で、その拘束をめぐる審理について、南部ルイジアナ州ではなく北東部ニュージャージー州に移送するよう命じた。移送に反対する政府の訴えを棄却した。 グリーンカード(アメリカ永住権)を持つ米コロンビア大学卒業生のハリル氏は今月8日、ニューヨークの自宅で米移民関税捜査局(ICE)に拘束された。ニューヨーク市内の連邦政府庁舎で一晩を過ごした後、隣接するニュージャージー州の施設に一時送られ、その後にルイジアナ州の留置施設に送られた。パレスチナ・ガザ地区での戦争への抗議活動を昨年、コロンビア大学構内で行ったことが理由とされる。 ハリル氏はシリアのパレスチナ難民キャンプで生まれ育ち、2022年に学生ビザでアメリカに留学した。2024年春にコロンビア大学構内で続いた、ガザでの戦争に反対する抗議行動で、目立つ存在だった。 ハリル氏の弁護団は、同氏の身柄をルイジアナ州からニュージャージー州に戻すようニューヨークの連邦地裁に訴えていた。対するトランプ政権は、この請求を退けるよう主張していた。ルイジアナ州の控訴裁判所は、アメリカでも特に保守的とされる。 ハリル氏は18日、ルイジアナ州の留置施設から家族に電話で口述したで手紙で、自分は「言論の自由の権利を行使した」ために標的にされた「政治犯」だと主張した。 ハリル氏はこの手紙で、ニュージャージー州の留置施設では毛布を与えられず、何も敷いていない床で直に眠るしかなかったと述べている。 トランプ大統領は、学生デモの参加者が「非アメリカ的行為」を繰り広げたと非難し、厳しく取り締まると約束している。ハリル氏の拘束は、これに関連すると受け止められている。 ICEの記録によると、コロンビア大学がマンハッタンに所有するマンションに住むハリル氏が、その自宅に妻といたところを、ICE職員が拘束した。 ハリル氏は自分の拘束に異議を申し立てる訴えをニューヨークの連邦地裁に起こしたが、トランプ政権は訴えを退けるか、もしくはルイジアナ州の裁判所に移送するか、求めていた。 これについてニューヨーク連邦地裁のジェシー・ファーマン判事は19日、政府の申し立てを棄却。ハリル氏が釈放を求めて「訴えを起こすことのできた裁判所の管轄区域」はニュージャージー州しかなかったため、裁判の移送先はルイジアナ州ではなくニュージャージー州でなくてはならないとの判断を示した。 ファーマン判事はさらに、審理中はハリル氏の国外追放を禁じるとした自らの3月10日の命令を維持した。ただし、即時釈放を求める弁護士の要請については判断を示さなかった。 司法省はこの判決についてコメントしていない。 ハリル氏の代理人、サマ・シセイ弁護士は19日、政府がニューヨーク州やニュージャージー州での裁判を避けるためにハリル氏の身柄をルイジアナ州に移したのだと述べた。 「ハリル氏は自由になり、妻と一緒に家で、二人の第1子の誕生を待つべきだ。それが実現するよう、私たちは引き続き全力を尽くす」と、シセイ弁護士はロイター通信に話した。 ハリル氏の妻はアメリカ国民で、今は妊娠8カ月。 ハリル氏の弁護団は、同氏がガザ地区のパレスチナ人を支援し、アメリカのイスラエル支援に反対するデモを行ったのは、言論の自由の行使だったと主張している。弁護団は、政府が「学生運動と政治言論を公然と弾圧している」と非難した。 トランプ大統領はかつて、「テロリストの同調者」だと判明した留学生は国外追放すると述べていた。 ハリル氏は拘束されているものの、何らかの罪状で起訴されているわけではない。 トランプ大統領の次席補佐官、スティーヴン・ミラー氏は19日、「この国を訪れるどの外国人も、ハマスなど指定テロ組織を支援することは禁止されている」というのが、政権の方針だと述べた。 ■大型スーパーで働くメキシコ出身の女性も ハリル氏とは別に、コロラド州デンヴァーでは17日、正規の手続きを経ずに入国したものの30年近くアメリカで働いてきたメキシコ出身の女性が、ICEに拘束された。 ジャネット・ビスグエラ氏はトランプ大統領の1期目、その処遇がアメリカで全国的な話題となっただけに、今回の拘束に移民保護活動家たちが強い懸念を示している。 ビズグエラ氏は2017年に強制送還される予定だったが、宗教施設にいれば強制捜査から逃れられるかと期待し、デンヴァー市内の教会の地下室に隠れた。2021年にはバイデン政権が、強制送還を1年間延期すると判断した。 ビズグエラ氏は1997年、必要な書類のない状態でメキシコシティからアメリカに移住し、20年以上にわたって移民コミュニティーの代弁者として広く認識されてきた。 BBCがアメリカで提携するCBSニュースによると、ビスグエラ氏は17日午前、勤務先の大型スーパー「ターゲット」の店舗の外で連邦捜査員に拘束された。 民主党関係者や移民の権利を支持する大勢が、この措置を批判。18日朝にはデンヴァー郊外オーロラにあるICE施設の前に集まり、抗議した。 デンヴァーのマイク・ジョンストン市長は、ビスグエラ氏の逮捕は移民法執行を装った「政治的反体制派へのプーチン流の迫害」だと非難した。 「彼女はターゲットで働いている。そして、複数のアメリカ市民の母親だ。彼女を拘束したところで、私たちのコミュニティーを安全にしない」と市長は付け加えた。 ICEはCBSニュースに対して、ビスグエラ氏の逮捕を認め、同氏が軽犯罪で2回にわたり有罪判決を受けていると述べた。 「メキシコ出身のビズゲラは、有罪判決を受けた外国人犯罪者で、連邦移民判事から強制送還の最終命令が出されている」と、ICEは声明で述べている。 「彼女は1997年12月24日にテキサス州エルパソ近郊からアメリカに不法入国し、移民裁判所で法的手続きを受けている」ともICEはコメントした。 抗議者と家族は、ビスグエラ氏が収容されているオーロラの移民収容センターの外に集まり、抗議を続けている。 (英語記事 Judge orders Mahmoud Khalil's case transferred from Louisiana to New Jersey)

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