伝説を作ったミュージシャンの映画は、カリスマとして君臨する時代も描かれるが、本作は異色の作り。ボブ・ディランの20代前半のみにフォーカスし、自身の音楽と向き合った一人の青年のドラマとしてピュアな輝きを放つ。1961年、NYに来たディランが、敬愛する歌手ウディ・ガスリーを訪ねてから、さまざまな出会いを通して、名曲『風に吹かれて』などを完成。フォーク・フェスティバルで革新的なパフォーマンスに挑むまでが描かれる。 最大の見どころは20代のディランを託されたティモシー・シャラメの演技で、天才でありつつ、野心との葛藤、奔放な恋愛までを等身大の青年として体現。5年間におよぶトレーニングで、ギターやハーモニカの技術、歌唱力を磨き上げた成果が、パーフェクトに映画に焼き付けられ、感動せずにはいられない。パフォーマンス場面の“ライブ感”は、この種の映画でも最高レベル。ボブ・ディランだけでなく、ジョーン・バエズ、ジョニー・キャッシュといったレジェンドたちも登場。1960年代カルチャーとアメリカの歴史が、一人の天才アーティストの誕生にどう関わったのかも再認識できる。