3月23日(日)に完結した松坂桃李主演の日曜劇場『御上先生』(TBS系)。最終話(第10話)の内容を報じたネットニュースやSNSの感想では絶賛する声が多い。 たしかによくできたストーリーだった。社会問題に切り込んだ深いテーマがあったし、なおかつエンタメ作品としておもしろくもあった。 筆者も純粋に楽しむことができたので、素晴らしい良作だったと思っている。 ……というのが大前提。だが、さすがにポジティブな意見が多すぎではないか。そこで本稿では、筆者が残念だと感じたネガティブな要素をあえて記しておきたい。 ■《日本教育の破壊》などの大げさすぎるキャッチフレーズ 御上孝(松坂)は文科省のエリート官僚。私立高校への初の官僚派遣として、有名進学校・隣徳学院に赴任し、高3クラスの担任教師として教壇に立つことに。 しかし実は、御上の本当の目的は文科省・隣徳・政治家という三者の裏のつながりを暴くことだった。 そんな本作の公式サイトを覗くと、イントロダクションとして次のようなパンチラインが踊っている。 《文科省の“官僚”兼“教師”が 権力に侵された日本教育をぶっ壊す!?》 《―辞令、日本教育の破壊を俺に命ずる―》 《令和の18歳と共に日本教育に蔓延る 腐った権力へ立ち向かう 大逆転教育再生ストーリー!》 さて、ここで残念だと感じたポイントをお伝えしよう。端的に言うと「大げさすぎる!」ことだ。 ■【ネタバレあり】御上が暴こうとしていた “闇” の全貌 最終話で、御上が暴こうとしていた “闇”(=解決しようとしていた問題)の全貌が明らかになったのだが、正直そのスケールを「ちっさ!」と感じてしまった。 ネタバレすると、隣徳学院は政治家から指示のあった生徒を不正入学させており、その見返りとして不正入学した保護者から寄付金を得たり、国から莫大な助成金を得たりしていた。 御上たちはこの不正の証拠を掴んで新聞に報じさせ、さらにこの悪事に絡んだ人物たちを警察に突き出して、めでたしめでたし――というクライマックスだった。 学院の生徒、教師、保護者といった当事者たちからすれば、人生を左右する大問題ではあるのだが、誤解を恐れずに言うなら、所詮は不正入学と裏金という小規模な問題にすぎない。 エリート官僚の主人公がわざわざ高校教師になってまで立ち向かっていたのは、そこまで意外性もないしスケールも大きくない “闇”。もちろんこの問題解決が、主人公が最終目標とする日本全体の教育改革の第1歩にはなっているのだろうが、1クールかけて描いたのが “第1歩” にすぎなかったとも言える。 ■最後まで巨悪のラスボス的なキャラは出てこなかった この結末を踏まえて、改めて《日本教育をぶっ壊す!?》《日本教育の破壊を俺に命ずる》といったキャッチフレーズを見てみると……仰々しすぎないか。日本教育のもっと大きな病巣を、主人公がぶった斬ってくれるものと期待してしまっていた。 しかも警察に突き出されたのは、初回からうさん臭かった学院の理事長(北村一輝)や文科省の局長(及川光博)らで、意外性はなかった。 ミステリー要素を入れて考察熱を煽っていた感もあったので、ストレートな予想のキャラがそのまま悪役で、最終話でどんでん返しもなかったため、肩透かしを食った視聴者もいただろう。 また、北村一輝や及川光博は貫禄のあるいい役者だと思うが、本作で演じたのは悪役として “大物” とは言いがたいキャラだった。“小物” というわけではないが、言うなればせいぜい “中物” ぐらいのレベルで、巨悪のラスボス的なキャラクターは出てこなかったのである。 いち私立高の不正を暴いて “中物” を裁いただけなので、さすがに “誇大広告” に感じてしまった。 ■劇中で一番ショッキングだった殺人事件は “別問題”? ちなみに劇中で一番ショッキングだったエピソードは、第1話冒頭で描かれた国家公務員採用総合職試験の会場で起きた刺殺事件。 逮捕された犯人が隣徳学院の元教師の娘で、この殺人も隣徳の問題から端を発した事件だったのだが、不正とそこまで密接にからみ合った事件ではなかった。 劇中ではバタフライ・エフェクトとして語られており、たしかに元をたどれば不正問題が殺人事件のきっかけにはなっているのだが、犯人の動機に直接関係しているわけではないので、強引なこじつけのようにも思える。 要するに、物語冒頭で挿入されて意味深長に描かれていた殺人事件は、よくよく考えると主人公が解決しようと向き合っていた不正事件とは “別問題” だったのだ。 うがった見方をすると、主人公が不正入学の闇を暴くだけではインパクトに欠けると思って、脚本家が殺人事件を取ってつけたのではないかと勘繰ってしまう。 ――最初にお伝えしたとおり、『御上先生』が深いテーマを扱った上質な作品だという評価に異論はないし、個人的にも楽しく視聴できたドラマだった。だが、そのうえで気になる点がいくつかあったのが、残念だったということである。 ●堺屋大地 恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。『文春オンライン』(文藝春秋)、『現代ビジネス』(講談社)、『集英社オンライン』(集英社)、『週刊女性PRIME』(主婦と生活社)、『コクハク』(日刊現代)、『日刊SPA!』『女子SPA!』(扶桑社)などにコラム寄稿