大ヒット作『ベテラン』(15)に続く待望の続編として、韓国で大きく注目されたクライムアクション『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』(4月11日公開)。ファン・ジョンミン演じる刑事ソ・ドチョルが「今度はどんな敵と戦うのか?」という興味に加えて話題を集めたのは、人気俳優チョン・ヘインが新人警察官役で合流するというニュースだった。2014年にデビューし、ドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」での好演をきっかけに“国民的年下彼氏”という愛称で呼ばれるようなったチョン・ヘインは、端正なルックスと役に溶け込む演技力、鍛え上げられた肉体を存分に生かして多彩な作品に出演。『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』では、それまでの印象を一新するような、ストイックかつミステリアスな人物になりきっている。唯一無二の魅力でキャリアを築いてきた彼の歩みを振り返っていこう。 ■チョン・ヘインの名を世に知らしめた「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」 チョン・ヘインをトップスターの座へと押し上げた「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」を手掛けたのは、「妻の資格」「密会」など、感情豊かで美しい大人のラブストーリーで知られるアン・パンソク監督。「愛の不時着」のソン・イェジンというトップ俳優の相手役として抜擢されたチョン・ヘインは、3年ぶりに再会した姉の親友ジナに恋するジュニを繊細に演じた。 実年齢とほぼ同じ5歳差という設定ながら、童顔のチョン・ヘインはそれ以上に年下に見える。ジュニははじめジナから完全に弟扱いされるが、元彼に困らされている彼女を助けたり、身長差を利用して上から抱き締め「ずいぶん小さいな」と囁いたりするうちに、愛おしくてたまらない相手へと変化していく。これまでにない新鮮なキャラクターを好演したチョン・ヘインは韓国で数々の賞に選ばれたのはもちろん、アジア各地での人気も急上昇した。 ■優しい顔と葛藤を抱える顔のゆらぎに注目『スタートアップ!』 キム・ゴウンと共演したノスタルジックなラブストーリー『ユ・ヨルの音楽アルバム』(19)に続いて出演した『スタートアップ!』(19)は、行き詰まった人生のなかで、なんとか一歩を踏みだそうともがく青年たちの姿を描くヒューマンドラマ。チョン・ヘインは、『密輸 1970』(23)のパク・ジョンミン演じる主人公テギルの親友サンピル役で登場する。 テギルが別の街で新たな人生を送り始めるのに対し、サンピルは認知症の祖母と同居しているため地元に残り、生活費を稼ぐため、街の金融会社で見習いとして働きだす。名優コ・ドゥシム扮する祖母へ注ぐ優しいまなざし、暴力的な取り立て現場で見せる複雑な想いがせつない。テギルといるときの屈託のなさから時折こぼれる笑顔まで、等身大のキャラクターになりきっている。 ■シリアスな物語に生々しさを加える「D.P. -脱走兵追跡官-」 柔らかなイメージの役柄続いていたチョン・ヘインが、うちに秘めた鋼のような強さを存分に発揮したのが、脱走兵を捜索するD.P.(軍務離脱逮捕専従班)に配属された兵士を演じた「D.P. -脱走兵追跡官-」。複雑な家庭の事情を抱える主人公ジュンホをストイックに見せた。ク・ギョファン扮するおしゃべりで調子のよい先輩兵士との、徐々に高まるバディ感も見どころ。先輩から学びながら正義感を持って任務に邁進するジュンホの一挙手一投足から目が離せない。 脱走した兵士たちのエピソードを追っていくだけでなく、その背景にある陰湿ないじめなど、過酷な軍隊生活を伝えるリアルな描写も話題を呼んだ。好評を受け、2022年にはシーズン2も配信。さらにスケールアップしたストーリーのなかで、チョン・ヘインの力強さも増している。 ■強い覚悟がにじむ表情に唸る『ソウルの春』 1979年12月、大統領暗殺後の混乱の中で権力奪取を狙う人々と秩序を守ろうとする人々が火花を散らした一夜を臨場感たっぷりに描きだした『ソウルの春』(23)。実際に起きた出来事に映画的な想像力を加味して作り上げたこの群像劇は、韓国で1300万人以上の観客を動員。のちに大統領となる全斗煥(チョン・ドゥファン)をモデルにした軍人チョン・ドゥグァン役のファン・ジョンミンを筆頭に、驚くほど多数の俳優たちが次々と登場する。チョン・ヘインは、反乱軍に追い詰められた上官とともに戦う兵士を壮絶に演じ、短い登場シーンながら鮮烈な印象を残した。 ■普段と、幼なじみだけに見せる顔のギャップにキュン「となりのMr.パーフェクト」 ラブコメディ「となりのMr.パーフェクト」では、「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」や「ある春の夜に」といったリアリティのあるラブストーリーや、BLACKPINKのジスと共演したドラマティックな「スノードロップ」では見られなかったコミカルな面を発揮。実際にも同い年のチョン・ソミンとの息の合ったやりとりで笑わせながら、幼なじみへの気持ちを抑え続けてきた主人公のせつない想いを表現している。 時折回想される高校時代のシーンでは制服姿も自然に見せ、初恋のときめきが伝わってくる。まっすぐでピュアなキャラクターがチョン・ヘインらしい。 ■末っ子感は活かしつつ、新たな魅力を発揮『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』 そして、日本でも公開が迫る『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』で演じたのは、人手不足に悩む凶悪犯罪捜査班にスカウトされる若き熱血刑事パク・ソヌ役。先輩刑事ソ・ドチョルに憧れて警察官となったと話し、危険を顧みずに捜査に没頭するが、同僚たちも知らない別の顔を持つという人物だ。役作りにあたっては鏡を見ながら顔の筋肉を動かして研究し、いままで自分でも見たことのなかった表情を生みだしたという。トレードマークの柔らかな笑顔の奥に見える冷たい光に注目してほしい。また、長時間をかけてトレーニングを重ねた総合格闘技の技も、映画のキーポイントとなっている。 レッドカーペットでまぶしく輝くスターであると同時に、アクションからラブストーリー、SFまで、どんなジャンルの作品のなかでも揺るぎないキャラクターを作り上げ、観客を物語のなかに引き込む力を持つ俳優チョン・ヘイン。2月には「徹子の部屋」に出演して魅力を発揮し、日本での知名度も上昇中だ。次回作はラブストーリーとも囁かれている彼の今後から目が離せない。 文/佐藤結