盗撮した側とされた側、大きな温度差 高校の更衣室に隠しカメラ事件

高校の女子更衣室に隠しカメラを仕掛けて盗撮したなどとして、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)などの罪に問われた、神戸市中央区の無職の男(37)に対し、神戸地裁は今月、懲役3年8カ月(求刑懲役6年)の実刑判決を言い渡した。 起訴状に記された盗撮被害者は20人以上。兵庫県警によると、実際に撮影されたのは容量で10テラバイト分、重複を含めのべ約2万人に上るとみられる、異例の事件だった。 判決によると、男は2022年から24年にかけて、兵庫と奈良にある複数の高校に侵入し、体育館やプールの女子更衣室にハンガー型の隠しカメラを仕掛け、女子生徒らの裸を盗撮した。 「(盗撮には)リアリティーがある。実際の生活の一部が見られるから」 兵庫県警に逮捕され、留置場で勾留されていた昨年秋。男は、接見した記者に、盗撮する理由をそう語った。 接見では「あまり話したくない」と言いつつ、手口や動機をよどみなく、時に照れたような表情を見せながら答えた。 下見で防犯カメラの位置などを何度も確認し、「バレなさそうだな」と思える学校を選んだという。 被害者への気持ちを問うと、「警察の取り調べを受けるなかで、申し訳ないことをしたと思った」。 裁判の被告人質問などで、男の経歴が明らかになった。 高校は地域随一の進学校に入学したが、大学受験に失敗。2浪を経て進学したものの中退し、アルバイトなどを転々とした。 仕事を辞めて時間に余裕ができたことが、盗撮行為を始める一因になったという。 被害に遭った高校生の母親にも取材した。 娘は警察で自分が映っている映像を見せられ、「私だ……」とショックを受けていたという。 家族はあえて「普通」を心がけて生活し、娘も以前と変わらず通学できている。 ただ被害が今後の人生にどう影響するか。親の心配は尽きない。「娘は心の交通事故に遭った」 取材でその言葉を聞いた1カ月前、警察署から男が保釈される場に居合わせた。こちらへ近寄り、「出られました、良かったです」と笑顔を見せた。 事件と向き合う、被告と被害者側の温度差を感じずにはいられなかった。 そして今年3月19日、神戸地裁。 「盗撮被害者は多数に上り、被害結果は重い」。西村彩子裁判官はそう指摘し、懲役3年8カ月の実刑を言い渡した。 男は被告人席で背筋を伸ばし、判決を聞いていた。マスク姿でその表情を読み取ることはできなかった。(原野百々恵)

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