先週末(3月21日から3月23日まで)の北米興収ランキングは、ディズニーの実写版『白雪姫』(公開中)が初登場でNo. 1を獲得。4200館という大規模で公開され、初日から3日間の興収は4220万ドル。決して大ヒットスタートとは言いがたいオープニング興収となったのは、手強い閑散期の影響か、それとも作品自体のパワー不足が原因か。まずは近年のディズニーの“実写版”作品と比較しながら、この数字を紐解いていくことにしよう。 直近のディズニーの実写版作品といえば『ライオン・キング:ムファサ』(24)だが、同作のオープニング興収はわずか3540万ドルと、今回の『白雪姫』を下回っていた。また、比較対象にしやすい同じ“ディズニー・プリンセス作品”である実写版『リトル・マーメイド』(23)のオープニング興収は9557万ドルと好スタートを飾っており、『白雪姫』の初動は同作との対比で44%止まり。 しかし両者を最終興収(『ムファサ』は現在も北米公開中だが)で見ると、『リトル・マーメイド』はオープニングの3倍強の興収2億9800万ドルだったのに対し、『ムファサ』は同7倍以上の興収2億5000万ドルを突破。批評集積サイト「ロッテン・トマト」によると、『リトル・マーメイド』の批評家からの好意的評価は67%で観客からのそれは94%、対して『ムファサ』はそれぞれ56%と89%なのだから、作品の評価と興行の持続力が単純に比例するというわけでもなさそうだ。 そうなると考えることができるのは、やはりシンプルに公開時期の影響が大きいのかもしれない。サマーシーズンの始まりに公開され、競合作品が相次いだ『リトル・マーメイド』よりも、年末年始興行に合わせて公開され、年明け後の閑散期に数少ないビッグタイトルとして劇場で存在感を放ち続けた『ムファサ』のほうが息の長い興行となるのは当然である。これらを踏まえると、現在の閑散期まっただなかに公開された『白雪姫』も、『ムファサ』のような興行展開を望める可能性がないわけでもない。 とはいえ、ここでようやく作品評価が重要になってくる。「ロッテン・トマト」によれば『白雪姫』の批評家からの好意的評価は41%で、観客からのそれは74%。SNSで散見される極端な反応から考えると予想以上に踏みとどまっている印象ではあるが、先述の2作よりも低い。オープニング興収と批評家からの評価、公開時期が近いのは、それぞれ4550万ドル、46%、3月下旬公開だったティム・バートン監督の『ダンボ』(19)だろう。 観客からの評価が『白雪姫』よりも低かった同作の最終興収は、オープニング興収の約2.5倍の1億1400万ドル。『白雪姫』も同じ比率、あるいはそれ以上でフィニッシュするとすれば、1億ドルの大台には届く可能性は高い。しかしながら、2億5000万ドルというビッグバジェットを回収するのは極めて困難で、かなり厳しい戦いを強いられることには変わりなさそうだ。 さて、ランキング2位の『Black Bag』が1位の『白雪姫』に10倍近い興収差を付けられたように、数字面で特筆すべき作品がないのが閑散期の現状。なので、もっと下の方にランクインした作品をひとつ取り上げてみようと思う。1館での公開ながら興収4万2519ドルという、2025年で最高のシアターアベレージを記録した『Secret Mall Apartment』だ。 ジェシー・アイゼンバーグがプロデューサーとして名を連ねた同作は、ロード・アイランドにあるショッピングモールで20年ほど前に起きた“事件”を描いたドキュメンタリー。8人のアーティストたちが、モール内にこっそりと居住スペースを作り、4年間もそこで生活していたというのだ。なにより興味深いのは、公開された1館がこのモール内にある劇場で、映画の存在を知った地元住民が多く足を運んでいるのだとか。 しかも事件の発覚後に逮捕されたメンバーの1人は、モールへの出入り禁止が通達されていたのだが、この映画の公開にあわせてそれが解除。公開前に同劇場で行われたプレミアにサプライズで登場したという粋なできごとも。小品ではあるが、映画館=ショッピングモールにあるものが当たり前となった日本でも劇場公開してもらいたいものだ。 文/久保田 和馬