「かまってほしかった…」スパチャの投げ銭のために200万円の借金をした男性が語った〝現在の心境〟

3月11日、東京都新宿区の路上で動画配信中の女性ライバーが刺殺されるという痛ましい事件が起きた。現行犯逮捕された容疑者は、250万円の貸し付けを被害者女性にしており、それが返済される見込みがなかったためと供述している。この事件を受けて、ライブ配信業界では、ライバーの安全を守るために、居場所が特定されそうな風景が映りこまないようにするなどの注意喚起を行っている。 YouTuber、ライバー、ストリーマーなど、呼び方はさまざまだが、彼らの収入は広告収益、企業からの仕事、サブスク収入、投げ銭が主となる。なかでも問題になりやすいのが投げ銭の文化だ。投げ銭とは動画配信中に配信者へ直接お金を送れる機能となっており、アイテムなどを購入する場合もある。 投げ銭で、配信者が自分に対して反応してくれることは、推す側にしてみれば至福の瞬間だ。しかし、エスカレートしがちな側面もあり、これまでも投げ銭についてはたびたび議論されてきた。借金など、身を削ってまで多額の投げ銭をする人は、どういう心理なのだろうか。投げ銭で借金が200万円を超えた時もあったという男性・Sさんに話を聞いた。 ◆「人と会えない孤独を埋めてくれた」 Sさんはこれまでしてきた投げ銭について「後悔はしていない」という。現在29歳だが、3年半ほどの〝推し活〟によって貯金は無くなり、借金まで背負うことになったにもかかわらず、だ。 「’21年頃にコロナで仕事もリモートになり、外出せず部屋でYouTubeを見て過ごす期間が多くなりました。そこで出会ったのが配信者です。12時間以上配信をしている人もいたので、ラジオ感覚で仕事中やご飯を食べている時にずっと流していました。話も面白いので、どんどんと配信者界隈にのめり込んでいき、生活の中心になっていました。当時は人と会えない孤独を埋めてくれていたんだと思います」(Sさん、以下同) たくさんの配信者を渡り歩いて、たどり着いたのはTと呼ばれる女性配信者だ。ライバー事務所に所属し、仕事として配信活動をしている人である。彼女のメインの活動は雑談配信と呼ばれるもので、プラットフォーム上で視聴者がコメントをし、それを雑談として取り上げるというものだ。 「僕以外にもかなり視聴者がいて、コメントが読まれるのは稀なことです。それでも、僕の他愛もない一言を拾って『面白いね』と言ってくれたのを今でも覚えています。そこで気がついたのは、スーパーチャット(以下スパチャ)と呼ばれる、コメントを目立たせるための投げ銭機能を使うとよく読まれるということでした。 最初は500円から始まって1000円、2000円……と金額は大きくなり、その配信者がくしゃみをするだけでも『くしゃみ助かる』なんて言いながら1000円を投げるようになりました」 ◆特別なスパチャをするために20万円借金 Tの配信頻度は週に5日。Sさんは毎日5000円以上はスパチャに投じ、月平均15万をつぎ込んでいたようだ。そしてSさんは「応援しているTさんにかまってほしかったんです」と当時を振り返る。また、視聴している人の中でも、「無料で配信を見ているだけの人」よりも、自分が上位にいるイメージだった。Sさんが新卒から働いて貯めていた貯金の300万円は1年9ヵ月ほどで底をつき、’22年末頃には消費者金融からカネを借りることになった。 「周年記念の配信があり、そこで高額なスパチャを投げようと思ったんですが、貯金がありません。最初は借金に抵抗はありましたが、20万円ぐらいならボーナス一括で返せるという返済のメドもあったので、消費者金融に電話をして借りることにしました。推しの周年ですし、古参ファンを名乗れるチャンスです。大金を投げて他のファンとは違うことをアピールするつもりで、どうしてもお金が必要だったんです」 「カネがなければ借りればいい」と借金は増えていった。’23年の末には借金の総額は200万円を超えていた。今でも返済に苦労しており、返しては借りてを続けている状況だ。なんとか利息だけを払い続けていた時もあったという。 現在も、同じ配信者を応援しているというSさん。「今は『箱推し』ってことで、Tさん個人よりも、その事務所全体の配信者を応援しています」とのことだ。 ◆高額なスパチャをしなくなった理由 「昔は3社で総額200万円近くまで借りていましたが、1社は返し終えて、残りの借金は120万円くらいです。今でも推しが活動を頑張ってくれていることが嬉しいですし、自分が3年も同じ推しを支えられたという達成感もあります。自分の中では親友のような人です。 でも、同じ事務所所属の配信者が引退したのを見た時に、高額なスパチャはやめようって思いました。いくらお金を費やしても、何も残らないだろうなと思ったからです。推しが引退した時にそうなるのは悲しい。今は推し活への熱は冷めてはいませんが、昔ほどの熱狂はありません」 それ以外にもSさんが高額なスパチャをしなくなった理由があるという。 「拝金主義者のような配信者が増えたんです。とにかく視聴者からカネを貰うことしか頭になくて『投げ銭を貰えないとやりたいことができない』と、視聴者にねだります。それで視聴者が減ると、さらに配信で愚痴って同情を引こうとする。そんな配信者を見て嫌になったのもあります」 リモートワークも終わるなど環境が変わり、Sさんが多くの時間を費やしてきた配信の視聴も、仕事から帰宅してご飯を食べる時だけになった。今後も借金を返済しながら配信者の活動を応援するという。 誰かの活動を応援するというのは素晴らしいことだが、Sさんのように「あとに何も残らないかも」と気づいてしまうケースもある。そのために借金をしてまで応援するのは疑問た。当人の問題ではあるが、過剰な投げ銭は今後も新しい問題を生み出しそうだ。 ※「FRIDAYデジタル」では、皆様からの情報提供・タレコミをお待ちしています。下記の情報提供フォームまたは公式Xまで情報をお寄せ下さい。 情報提供フォーム:https://friday.kodansha.co.jp/tips 公式X:https://x.com/FRIDAY_twit 取材・文:白紙緑

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