【色恋営業の事件簿】一方的な〝愛〟は激しい憎悪に変わる…それでも〝色恋〟がなくならない理由

3月7日に閣議決定された風営法改正案では「色恋営業」が禁止になる。これで果たして色恋営業はなくなるのだろうか。風俗ジャーナリストの生駒明氏が、近年の色恋絡みの事件の数々を紹介する【後編】だ。 【前編】30代の客をソープ嬢殺しに至らしめた〝ガチ恋営業〟の手練手管 ◆ライブ配信がきっかけで店に通って… 3月11日、東京都新宿区高田馬場の路上でライブ配信をしていた22歳の女性が〝視聴者〟でもある40代の男性容疑者にサバイバルナイフで刺されて死亡する事件が発生した。男性容疑者は、ライブ配信をきっかけに当時女性が勤務していたキャバクラに通うようになり、その後女性に約250万円を貸したことから金銭トラブルに発展、犯行に及んだという。 ’24年5月にも、ライブ配信が出会いのきっかけとなったガールズバー絡みの色恋営業事件が起きている。 東京都新宿区のタワーマンション敷地内で住民の20代の女性が50代の男性に刺されて死亡した。男性は、被害に遭った女性が経営するガールズバーの元客で、趣味で所有していた車やバイクなどを売り払ってまで工面したお金を「だまし取られた」と一方的に恨みを募らせ、凶行に及んだとみられている。 男性の父親の話によると、男性は「本気で結婚するなら車とかバイクを処分してお金にしてくれ」と女性から言われたという。大切な車やバイクを売り払い、ガールズバーの開店資金として女性に1000万円以上を貢いだが、お金を渡した後に冷たくされ、別れ話になり揉めるようになった。 2人の接点は、女性のSNSでのライブ配信に男性が参加していたことからだった。その後、女性が働いていたガールズバーに男性が訪れ、常連客になる。男性はつきまとい行為を繰り返し、’22年5月にストーカー規制法違反容疑で逮捕されている。 このとき男性は、「相手の女性に多額の現金を渡している。それを返してもらいたくて女性を待ち伏せしていたら、警察から注意を受けた。被害に遭った自分がなぜストーカー犯扱いされなければならないのか」などと憤慨していたという。釈放後は接近禁止命令が出ていたが、事件から1年弱前に有効期間が満了。ストーカー行為もなくなっていて、女性が警察に接近禁止対応の継続打ち切りを申し出ていたこともあり、解除されていた。 ◆一方的な思いが強い殺意に変わるとき 男性は「自分は彼女と付き合っている。俺たちは結婚の約束をしていた」と思い込んでいたようだ。金銭に余裕がなく、女性への思いだけで無理をしている客ほど、ストーカーになりやすい。「これだけ金を使ってやっただろ!」と、愛情は憎しみに変わり、時には強い殺意となってしまう。男性は2本の果物ナイフを持参し、女性の腹や胸などをメッタ刺しにしていた。 最近人気となったライブ配信の仕事も、専業で食べていくのはなかなか難しいようだ。副業でキャバクラやガールズバーで働く女性ライバーは少なくないという。また、夜のお店が本業の女性がライブ配信で集客している場合もある。ライバーの女性と直接会えたとなると、〝自分は特別な存在だ〟と思ってしまいがちだが、夜の商売と同様に彼女たちのホスピタリティは基本的に〝営業〟なのだと肝に銘じておくべきだろう。 また、ガールズバーを舞台にした事件は、’24年10月に東京・新橋でも起きている。ガールズバーで18歳の店員女性が、40代の客の男性に果物ナイフで首を刺されて死亡したのだ。女性の遺体には、首や顔などに十数箇所の刺し傷や切り傷があり、強い殺意があったことが分かる。男性は群馬県から片道2時間以上かけて月に1~2回女性に会いに来ていたようで、逮捕直後には「店の外では会いたくないと言われ、腹が立った」と供述していた。 最後に、風俗や接待飲食のような「お店」ではないが、色恋営業をマニュアル化して悪用した例として、世間を騒がせた「頂き女子」の詐欺事件を紹介したい。 ’23年8月、SNS上で「頂き女子りりちゃん」を名乗り、マッチングアプリなどで知り合った男性3人から、およそ1億5500万円をだまし取った自称風俗店店員の25歳(当時)の女性が、詐欺幇助の容疑で愛知県警に逮捕された。 ◆風営法改正で色恋はなくなるのか 女性は男性に恋愛感情を抱かせ、「親と縁を切るために手切れ金が必要」などと嘘を言って金をだまし取っていた。また、男性から現金をだまし取る手口を記載した〝恋愛マニュアル〟を販売し、購入者の詐欺の手助けもしていた。恋愛マニュアルの内容は、「悪い家庭環境で育ったかわいそうな女性を演じ、借金の支払いが迫っているという〝病み営業(病んでいるフリをする営業活動)〟を行えば、大金が手に入る」というものだった。 女性はターゲットとなる男性を「おぢ」と呼んでいた。狙われた〝おぢ〟は「真面目でコツコツ貯金しているような男性」「ブランド物にこだわりがなく、金がなさそうな人」だった。風俗店に来る客では「プレイよりトーク優先」「本指名で2回以上来ている人」などが該当し、「精神的に満たされていない人」がだましやすいとされていた。客に「助けたい」「それなら僕がなんとかする」と思わせるのがコツだという。 女性はパパ活女子界隈のカリスマとなっていた。だが「パパ活」と「頂き女子」は似ているが異なる。「パパ活」がデートや性行為の対価として金銭的支援を受けることなのに対し、「頂き女子」は信頼関係を作ったうえで嘘の悩みを打ち明け、一方的に大金を〝頂く〟のだ。「頂く」と言っているが、嘘をついて金をだまし取る、れっきとした犯罪である。女性は犯行で得た大金をホストへ貢いでいた。’25年1月に懲役8年6ヵ月、罰金800万円とした実刑判決が確定している。〝恋愛マニュアル〟は色恋営業のテクニックを分かりやすく解説して〝詐欺マニュアル〟化したものといえるだろう。 今回の風営法の改正で禁止されても、色恋営業がなくなることはないだろう。それは「客が求めている」からである。「普段の生活の中で恋愛ができないから、恋愛的体験を買いに風俗店や水商売店を利用している男性」は多い。彼らにとって〝色恋〟は「お金を払ってでも手に入れたいもの」である。 しかし、今回列挙した色恋営業が絡んだ事件から学べる教訓は、〝お金を払っても手に入れたい色恋〟でも「簡単に大金を渡してはいけない」ということだ。風俗の女性と過ごす時間はしょせん〝うたかたの夢〟。命の次に大切な財産を差し出してまで、手に入れなければならないものではないのだから。 取材・文・写真(新橋):生駒明

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