落とし物の「ヨウム」 大阪府警、希少種と知らず譲渡→事件に

落とし物として届けられた大型インコの「ヨウム」について、大阪府警が希少種だと把握せずに、動物愛護団体の代表を務めていた女性(48)に譲渡していたことが毎日新聞の取材で判明した。 女性はヨウムを、環境省に届け出ずに知人に譲り渡した疑いがあり、奈良県警が種の保存法違反容疑で捜査している。 大阪府警は「一連の手続きは適正だった」としているが、大阪府警に情報提供していた関係者らは「初期対応での不手際がなければ、事件は起こらなかったはずだ」としている。 ◇絶滅危惧でサイテスⅠ類に ヨウムは、アフリカ原産の大型インコの一種。体長30センチ程度で、灰色の体色と鮮やかな赤の尾羽が特徴だ。人間の5歳児程度とも言われるほど知能が高く、言葉をよく覚える。 世界中でペットとして人気を集めたこともあり、乱獲で急減。2016年、ワシントン条約(CITES、サイテス)で絶滅の恐れがあり、商業目的の国際取引を原則禁止する付属書Ⅰ掲載種に格上げされた。 これに伴い日本では17年から、環境省が委託した「自然環境研究センター」で登録された個体に限り、ペットショップでの販売を認めている。 未登録だった場合は個人間での取引ができず、環境相の許可を得たうえで、大学や動物園など学術機関への譲渡のみが許されている。 ◇希少種だと把握するまで3カ月余 大阪府警や関係者によると、問題の経緯はこうだ。 大型インコは22年12月15日、大阪府警東淀川署に落とし物として届けられた。署は動物園や環境省などには連絡せず、これまでも他の動物を「預かってもらっていた」女性に連絡。翌16日、女性が持ち帰り、世話を始めた。 落とし主が見つからないまま、2週間の保管期間を経た後の23年1月4日、大型インコの所有権が女性に移った。 女性は2月以降、代理人を通じてSNS(交流サイト)で飼い主を募った。希望者と20万~30万円程度の譲渡金の支払いを前提とした交渉もしていたという。 3月10日、こうした動きを知った関係者らは署に連絡。5日後、署は関係機関への照会から、大型インコが希少種の「ヨウム」だったことを初めて把握したとする。 大阪府警は3月22日付で、環境省にヨウムの譲渡に関わる文書を提出。女性に対して、他の者に譲り渡すと種の保存法違反にあたることを伝えたという。 女性は8月ごろ、ヨウムを知人に譲り渡したとみられ、奈良県警は25年2月、種の保存法違反容疑で女性を逮捕。その後、釈放し、任意で調べている。 女性は容疑を認めたうえで「誰かに大事に育ててもらったほうがヨウムが幸せに過ごせると思って譲渡した」などと供述しているという。 女性は、奈良県内に施設がある動物愛護団体の代表を務めていたが、逮捕後に役職を退いた。 ◇ヨウムには「足輪があった」 ヨウムが落とし物として届けられた際、環境省や動物園などに問い合わせなかった理由について、大阪府警会計課は「落とし物として届けられる動物の全てを、専門機関に確認するわけではない。ケース・バイ・ケースだ」とする。 代表への譲り渡しは、遺失物法に基づいた対処とする。希少種だと把握した時点で、所有権は代表に移っており、その後は環境省など関係機関に届け出ており、「一連の対応は適正だった」とコメントした。 ただ、関係者によると、女性は当初から大型インコがヨウムであることを認識していたとみられる。署から預かった直後の22年12月17日、団体のメンバーでやり取りするLINE(ライン)に「足輪がついていますが、番号を調べてもらったら登録されていませんでした」と送信していた。 大阪府警会計課は「担当者が代わっていることもあり、当時、足輪について把握していたかどうかも分からない」とした。 環境省は「個別事案にコメントできない」としている。 代表の一連の行動について、大阪府警に情報提供していた関係者らはこう憤る。 「ヨウムには足輪がついていた。まずは、そこに着目して関係機関に照会するなど、『当たり前』の対応をしていれば、女性に譲渡することはあり得ないし、事件も起きていないはずだ」 ヨウムは現在、飼育設備が整った施設で保護されているという。【松山文音、山口朋辰】

シェアする