「38度でも休めない」首都高6人死傷事故の背景にずさん運行管理 事業拡大の陰で 運送再考(上)

埼玉県戸田市の首都高速道路美女木ジャンクション付近で昨年5月、大型トラックが渋滞の列に追突し6人が死傷した事故で、警視庁交通捜査課は9日、運転手の体調不良を認識していながら必要な措置を取らずに運転させ、事故を引き起こしたとして、業務上過失致死傷の疑いで、勤務先の運送会社「マルハリ」(札幌市)元社長の男(48)=北海道石狩市=を書類送検した。容疑を認めている。 事故は昨年5月14日に発生。運転手は前日には体調不良を報告していたが、元社長らは代替の運転手を立てる措置や、事故当日の運行前点呼を行っていなかった。 ◇ 「ぶつかったときには意識がなかった」。衝突の衝撃でわれに返り、目に入ったのは炎上する車。周囲の人が車内に取り残された人を助けようとしたが、炎で近づくことができなった。運転手はトラックから降り、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くした。 昨年5月、首都高速道路の朝の渋滞の車列に、大型トラックが突っ込んだ。ブレーキをかけず、衝突時の時速は75キロ以上。乗用車とトラック計6台が巻き込まれ、乗用車は車線からはじき出されたり車体の間に挟まれたりして炎上。3人が死亡、3人が脳挫傷などの重軽傷を負った。 現行犯逮捕された運転手の降籏(ふりはた)紗京被告(29)=自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪で起訴=は、事故当日38度超の発熱があったが、薬を飲んで運転していた。取り調べなどでは、数百メートル手前の電光掲示板を見たのを最後に記憶がないと供述。捜査では、厳しい勤務状況やずさんな管理体制が浮かび上がった。 ■管理者不足、不備常態化 運転手は2、3日前から発熱し、薬を服用して運行を続けていた。会社側は事故前日、体調不良の報告を受けていたが、代替ドライバーは用意せず、当日は義務付けられている体調確認を含む点呼も行っていなかった。 運転手が勤務していた営業所は設置以来、車両台数や運送依頼が増加する一方で、運行指示書の作成や点呼が適切に行われず、国などから複数回指導を受けていた。泊まり込みで点呼業務などを担っていた運行管理者が亡くなると、募集をかけても新たな人材を獲得できず、事故当時まで補助の担当者に頼る状況が続いていた。 捜査幹部は、「運行管理者や補助者の増員が必要だった」と指摘する。営業所では所定休息の未実施や労働時間の超過も常態化し、連続運行が144時間超の運転手もいた。元社長は「売り上げ最優先で安全対策が二の次になっていた。悔やんでも悔やみきれない」と話しているという。

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