金子修介監督、ダメダメ助監督からサクセスストーリー “青春”の記録「若い頃の失敗談だったら読まれるかな…」

平成ガメラシリーズや映画「DEATH NOTE デスノート」で知られる映画監督の金子修介さん(69)が自身の助監督時代を振り返り、ブログ(note)に書いていたものをまとめた「無能助監督日記」(KADOKAWA、2090円)が発売された。当時の日記やメモを元に書かれた同書は、助監督として携わった数々の日活ロマンポルノの歴史がまとめられていると同時に、金子さんの“青春物語”をつづったエンターテインメント作品でもある。 「日記」は1978年2月21日、日活の助監督試験の面接を受けに行く時の描写から始まる。その後、300ページ弱にわたる本書は、当時の日付から金子監督が現場で会ったさまざまな人たちとの会話まで、実にリアル。そのまま同じタイトルで映画にできそうな内容だ。 「日記は小学1年生の時に親に勧められて書くようになりました。大学生の時は、自分がその日にどこで何をしたのかが分からなくなるのが嫌で、強迫観念みたいなものもあって毎日書いていましたね。日活に入ってからは仕事が忙しくて毎日書く暇があったわけではないのですが、習慣的に撮影のことは残していた。セット(撮影)だったら『S』、ロケーションだったら『L』と書いて、撮影が何日目だったとか。そこに雑感を加えるみたいな感じでしょうか」 それを見返し、文章としてまとめるきっかけになったのはコロナ禍だった。仕事が中断し、出歩くのが散歩だけになってしまった毎日。当時、金子監督は65歳だったが、ふと考えることがあったという。 「ネットのブログで『助監督時代のことを書いたら読まれるかな?』と思って『どのくらい覚えているのか?』とダイアリーをめくると、短いメモしかないんですが、当時のことがよみがえってきたんですね。それをまとめ始めたら面白いこともあったし、大して知られていないことも多かった。65歳で自分の老いをリアルに感じていて、コロナ禍という時期もあって死が具体的に迫っているという感覚もあり、『自分がもし死んじゃったら、誰も知らないことになるな…』と思いました」 金子監督は昨年公開された「ゴールド・ボーイ」まで40本以上の作品でメガホンを執っている。一般的に映画監督が自身を振り返った本と聞くと、自らが手がけてきた作品について書かれたものが多いが、本書は84年に「宇能鴻一郎の濡れて打つ」で監督デビューするところまでがつづられている。なぜ、助監督時代に的を絞ったのだろうか。 「ブログの時は、ほとんど何も考えていませんでしたが、『監督になってからの自慢話はあんまり面白くないけど、若い頃の失敗談だったら読まれるかな…』という気持ちはありました。あと、これは映画監督になりたいという若者が助監督から監督になっていく、ある種のサクセスストーリーでもある。それは一般的なエンターテインメントになるのかな?とも思ったり。失敗の歴史だったら、(読者が)一緒に面白がってくれるんじゃないかと。助監督としては本当にダメだったので」 確かに、本書で登場する「助監督・金子修介」は先輩の助監督や監督に怒られてばかりだ。そのダメダメぶりを振り返る作業は楽しくもあり、同時に苦しくもあったという。 「インタビューの時に助監督時代のことをたまに聞かれるんですが、その時は『嫌で嫌で仕方がなかった』と答えていたんですね。だから『何が嫌だったのか』を掘り起こす作業でした。すると、いろいろな人と関わり合っていたことが分かった。新たな発見ではなく確認というか。この本の中にも出てきますが、押井守さん【注】から『驕慢(きょうまん)なヤツだ』と言われたことが引っかかっていたんですが、確かにそうだったと自己確認しました(笑)」 一方で、日本の映画史の中で一時代を築いた日活ロマンポルノの歴史を残したい気持ちもあった。 「映画だけじゃなくて、テレビや小説も含めた文化として考えても、(ロマンポルノの隆盛期だった)60~70年代は真実を暴露するというか、『これが正しいことなんだ』と伝えるために表現していくという方法があった。隠されているものを表に出すという意味では、性についてもそうで、ヌードも『許容していた』というよりもむしろ『知るべきもの』としていた時代。そこにロマンポルノがあったのであって、この本はその記録のうちの一つといったところですかね」 逆に、「映画監督を目指す人のためのテキスト」という感覚は持っていないという。 「参考になるのか、正直言って分からないので。時代が違い過ぎるところもありますから。もし、この本を書いたのが50代だったら『指針としてほしい』と思ったかもしれません。それに、書いているのは自分の現場のことだけ。身の回りの知っていることだけを書きました。ただ、日付とかは正確だし、細部まで調べ直しています。だから『参考にできそうな人はしてみてください』という感じでしょうか」(高柳 哲人) 【注】「機動警察パトレイバー」「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」などで知られるアニメーション監督。金子監督にとっては東京学芸大学の映像芸術研究会の先輩で、自らがチーフディレクターを務めたテレビアニメ「うる星やつら」で金子監督を脚本家として商業デビューさせた。 ◆金子が監督が選ぶおすすめ一冊 「夜の谷を行く 桐野夏生著」(文春文庫) 桐野さんの作品はもともと好きなんです。暗すぎるというか、人間の暗い面ばかりを描いていることが多いと思うのですが、それでも引きずり込まれるところがある。新作が出るとだいたい買っていましたが、(2020年発売の)この本はちょっとうっかりしていて、最近になって読んだ一冊です。 連合赤軍の一員だったもの、リンチ殺人を恐れて山岳アジトから逃亡し、逮捕された女性を描いた物語ですが、読んでいくうちに「この本は実在の人物に取材をして書かれたルポに違いない」と思うようになりました。それだけリアリティーがあったんですね。でも終盤になって、「フィクションとしてよくできているな」と驚き、感動しました。 「OUT」や「東京島」など、桐野さんの作品は多数映像化されています。私も「バラカ」を読んだ時には「これは映画にできるかな?」と思ったこともありましたが、やっぱり難しいな、と。この作品も、連合赤軍が深く関係してくるので、なかなか難しいですかね…。(談) ◆金子 修介(かねこ・しゅうすけ)1955年6月8日、東京・渋谷区生まれ。69歳。高校時代から8ミリ映画を撮り始める。東京学芸大卒業後の78年、日活に入社。81年、テレビアニメ「うる星やつら」の第3話で脚本を担当。84年、日活ロマンポルノ「宇能鴻一郎の濡れて打つ」で監督デビュー。85年、「みんなあげちゃう[ハート]」で一般映画に進出。95年「ガメラ 大怪獣空中決戦」でブルーリボン賞監督賞を受賞。

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