意外におとなしかった罷免反対の尹錫悦派 関心は大統領選へ 澤田克己

いつものことなのだが、韓国政治の風向きが変わるのは早い。尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の弾劾賛成派と反対派が各地で数万人規模の大規模集会を開いてにらみあってきた光景は、憲法裁判所が裁判官全員一致で罷免を言い渡すと一変した。韓国社会の関心は既に、6月3日の大統領選へと移っている。意外だったのは、暴動を起こすのではないかとまで心配された反対派があっさりおとなしくなったことだった。 ◇2時間で誰もいなくなった 決定が言い渡された4月4日には、憲法裁周辺で賛成、反対両派が夜を徹して集会を開いた。罷免が言い渡された瞬間に賛成派集会では歓声が上がり、反対派集会では落胆の声が広がった。 反対派集会の現場を見ていた外交官によると、言葉を失って天を仰ぐ人が多く、「守ってあげられなくてごめんなさい」という女性の声も聞こえてきたという。だが宣告から2時間もすると、誰もいなくなった。大統領公邸前でも大規模な反対派集会が開かれていたが、こちらも混乱はなく、数時間でお開きになっている。 怒りにまかせて棒で機動隊バスの窓を割った男が現行犯逮捕されたものの、混乱はその程度で終わった。1月には尹氏の逮捕状を出した裁判所に暴徒化した支持者が乱入して56人が逮捕されていたし、8年前に朴槿恵(パク・クネ)元大統領の罷免が言い渡された時には過激な支持者が機動隊と衝突して4人の死者が出た。それだけに、この日の静かさは驚きと安堵を持って受け止められた。 ◇国会前の集会は中止に 弾劾反対派はそれまでソウル都心の光化門広場と、国会前の2カ所で週末ごとに大規模集会を開いてきた。そこでは、もし大統領罷免を言い渡すようなら「憲法裁をぶっつぶせ」などと過激な主張が繰り返された。 宣告翌日で土曜日だった4月5日も、二つの集会が予告されていた。だが、国会前の集会は憲法裁の言い渡しを受けて早々に中止となった。ここでスター的な存在となっていた予備校講師は集会での激しかった発言を一転させ、ユーチューブでの生放送で「宣告結果を受け入れるようお願いする。それが、私たちが追及してきた自由民主主義と法治主義だ」と呼びかけた。

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