銀行員の窃盗事件で貸金庫難民が発生 金地金を貴金属商や倉庫業者に預け替えも 佐々木城夛

金地金の保管場所として利用されていた銀行の貸金庫で、行員によるまさかの窃盗事件が発覚した。何を預けていたかの立証も難しく、死角を突かれた形だ。 ◇金現物の格納先で幅広く利用 三菱UFJ銀行やみずほ銀行で行員による貸金庫からの窃盗事件が発生し、金地金(きんじがね)などを取り扱う貴金属商に、現物の保管に関する問い合わせや相談などが増えている。これまで個人にとって銀行の貸金庫は金地金の有力な保管先の一つだったが、事件が利用者に与えた不信感は小さくなく、保管場所に悩む“貸金庫難民”が発生している。 銀行など金融機関が取り扱う貸金庫業務は、1年または半年払いの使用料と引き換えに、店舗に備え付けた格納箱状スペースの利用権を利用者に貸し出す取引で、アパートの賃貸借によく似ている。取り扱いを定めた貸金庫規定には格納できる物品の範囲が定められ、貴金属や宝石も列挙されていることから、金現物の格納先として幅広く利用されてきた。 しかし、昨年11月に三菱UFJ銀行で、行員によるまさかの窃盗事件が判明し、行員は懲戒解雇された。今年1月には窃盗容疑で逮捕され、2020年4月ごろから約4年半に顧客60人以上から金塊を含む計約17億円相当の金品を盗んだとみられる。また、みずほ銀行やハナ信用組合(東京)でも同様に職員による貸金庫からの窃盗が判明した。 貸金庫の利用料金は大きさや金融機関によって異なるが、高さ6.5センチ×幅28センチ×奥行き52.5センチなら6カ月で1万1000円程度と手軽に使え、1キロの金地金(縦11.85センチ×横5.4センチ×厚さ0.84センチ)なら物理的には数十枚は入れられる。一方、三菱マテリアルの金の預かりサービスは、6カ月の保管料は2㌔以上5㌔未満なら金の評価額の「0.08%÷2」(消費税別)で、足元の金価格なら2㌔で貸金庫の料金を超える。 ◇統廃合で利便性も低下 ただ、金融機関の貸金庫は利用者側には貸金庫規定の順守が求められるものの、金融機関側に何を格納しているのかを開示する必要はなく金融機関側も把握しない。三菱UFJ銀行などの窃盗事件はこの死角を突かれた形で、被害者は何を格納していたかの立証に相当な負担を強いられたとみられる。一方、貴金属商の預かりサービスなら、金地金を預けた時期や重さの情報は利用者と共有され、窃盗に遭う心配はない。

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