FRIDAYは3月21日発売号で、大手企業のように組織化されたナチュラルの内部構造や彼らが使用する「闇アプリ」について明らかにした。昨年だけで50億円を売り上げた巨大組織の輪郭は朧気(おぼろげ)ながら見えてきたが、トップをはじめとする上層部の実態や2000人ものメンバーを抱える支配構造など、謎は多かった。 内情を知る現役メンバーに接触しようと取材を進めていたが、もともと情報管理が厳しいうえにスカウトグループに対する最近の警察の包囲網もあってか、誰もが警戒心が強く難航を極めた。そんななか、ある情報を頼りに、数年にわたって組織に在籍する現役メンバー・佐伯(仮名)にようやく会えることになったのだ。(以下、とくに記述のない「」内の発言はすべて佐伯) ◆「会長は武闘派として有名」 捜査当局の動きはどうなっているのか。実は今年1月27日、警視庁の組織犯罪対策部を中心とした捜査班が、ナチュラルの最高幹部を含めた一斉逮捕を狙って動いたことがあった。数十ヵ所の関係先を捜索し、幹部が潜伏していると見られるマンションにも捜査員が踏み込んだが、そこはもぬけの殻で、すでに逃走した後だったという。逮捕されたのは集金などを担当する末端の二人だけ。捜査情報が、完全に組織に「抜けて」いたのだ。 ナチュラルが警察に対する情報収集を普段から綿密に行っているのは裏社会では有名な話だ。スカウト業界の内部事情に詳しい人物は「アンダーでつながっている捜査員から、直で情報を仕入れたと聞いている。少なくとも着手の2日前には、幹部たちは身(ガラ)をかわしていたはずだ」と話す。どこから情報が漏れたかはともかくとして、長期間の捜査にもかかわらずいまだ上層部の逮捕や組織の実態解明に至っていない。ナチュラル側はこれ以降、公園や路上で行っていた給料の配布についても頻繁に場所を変えるなど、さらに警戒を強めている。 捜査関係者の一人はこう明かす。 「『匿名・流動型犯罪グループ(通称トクリュウ)』の代表的な存在であるナチュラルが、現在も野放しになっているかのような印象で大きな問題だ。ただ、拠点となる事務所もないし、スマホ一つで仕事ができる連中なのでつかみどころがないし、ヤツらの場合はとくに徹底して捜査への対策をやっているのでそう簡単にはいかない。確実に上層部にたどり着けるようタイミングを計りながら準備を進めるしかない」 警察当局が追う組織のトップとは、いったいどんな人物なのか。ナチュラル創設者である「会長」は、以前はKという姓を使っていて今はTという姓を名乗っているが、偽名の可能性が高く、本名ははっきりしない。年齢は40歳くらいで、双子の弟も幹部に名を連ねているという。長く在籍している別のメンバーによると、最近も都内で会食する姿が目撃されている一方で、連絡には常にテレグラムを使うなど警戒も怠らないという。 「会長は、全国の幹部が集まる月イチの定例会議には今も必ず姿を見せていると聞いています。筋トレが趣味で、体重が100㎏くらいのボディビルダーみたいな身体つきですね。 昔から武闘派として有名で、別のスカウト組織から独立してのし上がったそうです。居住場所は、特定されないように頻繁に変えているようで、知っている人はほとんどいないと思いますよ」 従来の暴力団のように盃(さかずき)を交わすわけでもなく、リアルな場での集会や義理ごとがあるわけでもない。取材で見えてきたのは、スマホの特殊なアプリだけで匿名の2000人が繋がり、人身取引のように女性を扱い、年間数十億円もの莫大なカネが蠢(うごめ)く異様な世界だった。 取材に応じた現役メンバーの佐伯は、この日も仕事があると言いながら、繁華街に向かう前の別れ際に、こう話した。 「僕は今、地獄のような日々を送っています。もう精神的にもかなり限界にきているので、身の振り方を真剣に考えているところです。それなりの大学に行かせてもらいましたし、本当はきちんとした会社に入って親も安心させたいと思っていましたが、普通の仕事よりも稼げることや人間関係もあって、ズルズルときてしまいました。 自分の責任は自覚しています。後悔していて、だからこそ怖いですがこうして話そうと思ったんです。僕は、この世界から足を洗って、真っ当に働きたいと願っています。ただ、組織が消えることはないと思いますよ。4月も、けっこうな数の新人が入ってくると聞いていますので……」 最凶のスカウト集団『ナチュラル』。女性や若者を喰いものにして、まるで得体の知れない不気味なアメーバのように、今も増殖し続けている。 日本橋グループ* メディアや官僚、政界、ITなどの出身者で構成される新しい形の取材・情報チーム。国内外の機関と連携し、主に調査報道やドキュメンタリーの制作などを行っている 『FRIDAY』2025年4月18日号より