2024年の東京都知事選挙に立候補したAIエンジニアの安野貴博さんは、主要メディアでほとんど取り上げられない中で15万4638票を獲得し、全候補者中5位となった。安野さんは「選挙のポスター貼りは資金や組織力のある候補者でなければ完遂できないとされてきたが、都知事選ではテクノロジーを活用することで、その常識を覆すことに成功した」という――。 ※本稿は、安野貴博『はじめる力』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。 ■都知事選で「心がけていたこと」 選挙戦では、それぞれの役割分担を決めて仕事を割り振る時間がないような状況だったわけです。 チームリーダーの方々も、1カ月前に参加して2〜3日前にリーダーになったといった人ばかりで、全体像はわかっていないことも多かった。しかもマネジメントは超未成熟です。そんな中で「『あなたはこれをやってください』といった仕事の振り方は不可能です」と最初にギブアップしています。 逆に浮いているボール、つまり「やったほうがいいとわかっているけれど、まだ誰も手をつけていない」という仕事を、自分で拾って動いてもらうことが、今回は大事だと思ったのです。 Slack上では「これをやる必要があるんだけど、できる人いませんか?」という叫びがあちこちから上がっていました。そこで、できると思った人は自分から手を挙げてほしいし、逆に困ったことがあったときも、大声で「助けて!」と叫んでほしい。こういうことをしたほうがいいんじゃないかという提案も大歓迎、といったことをみなさんにお願いしていたわけです。 とにかく、何か困ったことがあったら共有し「自分で考えて動く」ことが、チームに浸透するよう心がけていました。 ■「ゲーム化」で誰もが動きやすくなる ボトムアップで動いていただくための施策として、ポスター貼りについては、テクノロジーも活用しました。 ポスター貼りに関しては、初め「東京都内で1万4000カ所にポスターを貼る必要がある」と知ったとき、正直なところ絶望しました。過去の候補者の話を聞いても「1人で100枚達成した」という規模の話がほとんどで、私たちも当初は「妻と自分で100枚ずつ貼ろう」というのが目標でした。 しかし、チームのメンバーから「やるからには5000枚貼ろう」という声が上がりました。最初は無理だと思っていましたが、ボランティアの方を募集したところ、予想以上に多くの方が協力してくれました。 ただし、他の候補者がよくやっているように、地域ごとに担当を割り振るようなマネジメントを行なう余力はありません。 代わりに、ポスター貼りをゲーム感覚で進められる「ポスターマップシステム」を開発しました。このシステムは、自分がポスターを貼った場所を登録すると色が変わる仕組みで、まだポスターが貼られていない場所がわかるというものです。さらに、進捗をリアルタイムで可視化する機能を整え、「あと残り何カ所」という表示が出るようにしました。