アングル:トランプ政権、移民監視にAI強化 正確性に強い懸念

william antonelli [ニューヨーク 18日 トムソン・ロイター財団] – トランプ米政権は、移民の追跡、拘束を目的とした監視システムと人工知能(AI)の活用を強化している。これにより正確性やプライバシーを巡るリスクが高まり、ほぼだれもが取り締まりの対象になりかねないとの懸念が浮上している。 国土安全保障省(DHS)をはじめとする移民管理当局は、公共の場に設置された顔認識スキャナーや南部国境で人間の動きを監視するロボット犬といったAIツールを、不法移民取り締まりの一環だと主張して利用している。 デジタル権利擁護団体、電子フロンティア財団の弁護士であるサイラ・ハサン氏によると、移民当局が使用する多くのAIツールは数年前から導入されており、過去の政権の遺産だ。 しかし現在、これらのツールの「対象範囲が大幅に拡大」している上、収集されたデータにアクセスできる当局者の層も広がっているとハサン氏は指摘する。 強化された監視網には、移民のソーシャル・メディア・アカウントを監視して個人情報を収集するバベル・ストリートのような民間請負企業のサービスも含まれている。 DHSや米税関・国境取締局(CBP)などの機関は収集された情報を利用し、移民の所在地を追跡して家系図を作成したり、逮捕令状や強制送還の決定を正当化したりする。 監視範囲の拡大を示す例として、ルビオ国務長官の下で3月に導入された「キャッチ・アンド・リボーク(捕まえてビザを取り消す)」プログラムがある。 ニュースサイトのアクシオスによると、同プログラムはAIを活用し、学生ビザ保持者をはじめとする外国人の公の発言を監視し、「(イスラム組織)ハマスその他、テロ組織に指定された組織を支援しているとみられる者」を特定するものだ。 捕捉された人は即座にビザを失う恐れがあり、ルビオ氏は実際、学生ビザや停留ビザ保持者を含む外国人300人以上のビザを取り消したと述べた。 <正確性を巡るリスク> デジタル権利擁護団体は、AIツールが「幻覚」と呼ばれる偽の回答を生成する傾向を指摘し、移民取り締りなど精度が求められる状況での使用は危険だと指摘している。 移民権利団体「ジャスト・フューチャーズ・ロー」の執行ディレクター、パロミタ・シャー氏は、これらのツールを使用した移民の拘束は「市民権侵害に関する多くの懸念を提起している」と語った。 トランプ大統領が1月に就任して以来、不正確なAIデータに基づいて移民当局が行動した事例が数多くあると、権利擁護団体は指摘する。 トランプ氏が1月に署名した大統領令では、2023年にプライバシーと正確性の懸念から廃止された「迅速DNA検査」の再開が示唆されている。これは移民の家族関係を検証するための検査だ。 ハサン氏は「この政権が目指しているのは正確性ではないと思う。『X人の拘束に成功した』という派手なニュースを狙っているのだ」と言う。 独立系のテクノロジーアナリスト、テケンドラ・パーマー氏も、トランプ政権は正確性よりも強制送還目標の達成を優先していると指摘。「技術に欠陥があるおかげで、現政権はAIを隠れみのに、検証もせずに強制送還のゴム印を押す政策を生み出している」と語った。 DHSと移民・税関捜査局(ICE)はコメントの要請に応じなかった。 <網を広げる> 研究者らによると、監視システムは移民だけでなく、国民か否かを問わずすべての米国居住者を対象にしている。 ジョージタウン大学法科大学院の研究者らは2021年、ICEが米国成人の4分の3の運転免許証データにアクセスできるほか、公共料金記録を通じても同じ数の人々を特定できることを確認した。 同大学院のプライバシー・テクノロジーセンターの研究員、エメラルド・ツェ氏は「こうしたデータ集約ツールは、全てのデータポイントを総合してその関係性を作り出す」と指摘し、「あなたの家庭、近所、職場など、文字通り生活のあらゆる場面にいる人々が巻き込まれる可能性がある」と言う。 専門家によると、集約されたデータは、ICEがだれを拘束すべきかや、拘束した人物を解放すべきか否かなどを判断する際のアルゴリズムに投入されている。 移民当局の権限範囲も拡大している。トランプ氏の別の大統領令により、地方の法執行当局はICEが使用する全てのAIツール、そしてツールが収集した全ての個人データにアクセスできるようになった。つまり、個人データを扱い、そのデータに関連する人物を捜索できる移民当局者が従来よりも数千人増えたということだ。 ハサン氏は「連邦当局も地方当局も(AI)技術を使えるようになった。多くの情報と、技術が収集するあらゆるデータが双方の間で交換されるだろう」と予想した。

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