カンボジア警察に昨年8月、3人の日本人男性から電話があった。詐欺集団から逃げ出したいので助けてほしいという。 警察が動いた結果、12人の日本人が『救出』された」と、カンボジアの人身売買対策団体の関係者は語る。「12人は犯罪の強制を目的とした人身売買の被害者だと語り、(首都)プノンペンの保護施設に移送された」 そこで事態はおかしな方向に動き出す。「警察に連絡してきた3人は本物の被害者だと思う。他の9人は詐欺師、または詐欺集団の元締めと思われるが、どういうわけか、彼らも一緒に逃げ出した」 施設に到着後、「被害者」のはずの18~22歳の若者少なくとも5人が3人を襲撃。サッカー場に立たせた彼らに向かってボールを蹴り、火の付いたたばこを手や足に押し付けた。 「施設側はこの3人を他の連中から引き離す必要があった」と、この関係者は言った。カンボジア警察は12人を被害者と認定した誤りを認めず、この状況は数週間続いた。10月初め、ようやく12人は詐欺容疑の逮捕状が出ていた日本に送還された。 このエピソードは東南アジアで急成長するオンライン詐欺業界をめぐる悲劇の一部にすぎない。この地域(特にカンボジア、ラオス、ミャンマー、フィリピン)では少なくとも2010年代初頭から、主に中国系犯罪組織が牛耳る小規模な詐欺集団が存在していた。 10年後には数十万人が働く複数の詐欺拠点に集結。そこでは多くの人々が現代の奴隷に近い環境で詐欺行為を強制されている。 多くの場合、こうした拠点はオンライン詐欺用に建設されたもので、オフィス、寮、店舗、娯楽施設などの設備が整っている。カジノに見せかけた施設やその近隣のビル、あるいは公認カジノの上層階で活動している例もある。アパートやマンションを転用するケースもある。 私たちはメディアの報道、裁判所や警察の記録、暗号化通信アプリのテレグラムの書き込み、被害者の証言からカンボジア、ミャンマー、ラオス、フィリピンで500以上の詐欺拠点を特定した。実際にはさらに多くの施設が存在するとみられる。 これらの拠点で行われる詐欺の手口は多岐にわたる。悪名高い「豚の屠殺」詐欺(SNS上でターゲットに接触して信頼させ、大金を搾り取る)、警察などを装って被害者をだます「官憲なりすまし」詐欺、偽の投資話や融資の申し出、いわゆる「ロマンス詐欺」や性的脅迫、電子商取引詐欺……。 昨年のある調査によると、主に東南アジアの詐欺集団が使う暗号通貨口座に過去4年間で750億ドル以上が送金された。 詐欺の加害者には自らの意思で仲間になる者も多いが、偽の求人広告にだまされたり親戚や友人に裏切られた人、誘拐・人身売買の犠牲者もいる。自発的に詐欺に加わった後、逃げようとして窮地に陥る者もいる。 いずれにせよ、今では数万~数十万単位の人々が身分関係書類を取り上げられ、暴力や虐待が日常茶飯事の環境から脱出できずにいる。