「車や、危ない。右に寄れ」 容疑者を確保した元警察官が見た小学生7人負傷事件の現場

「車や、危ない。右に寄れ」。元警察官は叫んだ-。 大阪市西成区の小学校沿いの路上で小学生7人がはねられて重軽傷を負った事件で、殺人未遂容疑で現行犯逮捕された無職、矢沢勇希容疑者(28)=東京都東村山市=を現場で取り押さえた学校支援員(生活指導支援員)で元大阪府警警察官の男性(70)が3日、産経新聞の取材に応じた。「ほかの子供たちが巻き込まれてもおかしくなかった」と緊迫した現場の一部始終を語った。 下校の見守りのため、1日昼過ぎに市立千本小学校の正門に立った直後だった。白色のスポーツ用多目的車(SUV)が北から蛇行しながら向かってきた。「危ない車やな」。不審に感じた直後、SUVは正門から南へ向かって歩く小学生の集団へ向かっていった。 「車や、危ない。右に寄れ」。必死に叫んだ。児童は後ろを振り返り、男性の言葉通りに道路脇へ体を寄せたが、「ドーン」という音が響いた。 「お母さん」「痛い」「助けて」。児童の絶叫が響く。直前まで元気よく「さようなら」と教員とあいさつを交わしていたのどかな光景が一変した。男性は「阿鼻叫喚だった」と苦悩の表情を浮かべる。 退官まで30年以上、刑事を務めた男性。剣道6段で、10年ほど前から学校支援員として登下校を見守ってきた。 その経験から、単なる事故ではないと確信。正門のインターフォンを押して教員に通報を依頼するとともに、その場から動き出そうとする様子を見せた車の運転席を開け、「降りてこんかい」とハンドルを握ったまま上の空の矢沢容疑者を引きずり下ろした。向かい合うように両腕をつかんで取り押さえたが、暴れることなく5分程度で到着した警察に引き渡したという。 当時は約300人の児童が下校しようとしている最中。「あの場で取り押さえていなかったら被害が拡大していたかもしれない」と振り返る。 矢沢容疑者は大阪府警の調べに対し、「全てが嫌になり、人を殺そうとした。乗っていた車で突っ込み、数人の小学生をひき殺そうとした」と供述している。 無差別殺人を企てたとみられるが、小学生7人は重軽傷を負ったものの命に別条はない。男性は「容疑者を取り押さえることで精いっぱいだった。子供たちがけがで済んだのは、とっさに壁際へ避けてくれたおかげだ」と児童たちの瞬時の行動をたたえた。

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