去年6月、熊本市中央区で飲酒運転の車にはねられ女性2人が死傷した事故。車を運転していた男の裁判員裁判が19日から始まりました。裁判では危険運転致死傷罪が成立するかどうかをめぐり、検察と弁護側の主張が真っ向から対立する展開となりました。まずはこの事故について振り返ります。 「飲酒運転がバレるのが嫌で、追突したトラックから逃げるのに必死でアクセルを踏んだ」 警察の取り調べに、男はこのように供述しました。去年6月15日の午前4時すぎ、熊本市中央区細工町の県道で、トラックの後ろを走る1台の車。 車はこの先でトラックに追突し、その場から逃げようと猛スピードかつバックで引き返します。そして、直後に熊本市電・祇園橋電停近くの歩道に突っ込み、その場にいた熊本市の児童相談所職員、横田 千尋さん(27)が車と信号機の柱に挟まれ死亡。一緒にいた横田さんの知人の女性も負傷しました。 車を運転していたのは熊本市中央区島崎に住む松本 岳 被告(24)です。 松本被告の呼気からは基準値の約2倍のアルコールが検出され、警察は過失運転致死などの疑いで逮捕・送検。その後、検察は、より罪の重い危険運転致死傷罪などで起訴しました。 松本被告は走行を制御することが困難な時速70キロ以上で約240メートルにわたって車をバックで走行させた後、歩道に突っ込み、横田さんら2人を死傷させた罪に 問われています。 【前田美沙希記者リポート】 「きょうの初公判で松本被告は起訴内容を一部否認。また、危険運転致死傷罪の成立をめぐっては検察と弁護側が真っ向から対立しました」 19日の初公判で、松本被告は酒気帯び運転で事故を起こし、横田さんら2人を死傷させたことについては認めたものの、「バック走行中に慌てて急ブレーキをかけたのではなく、〈止まらなきゃ〉と思い、自分の意思でブレーキを踏みました」と起訴内容を一部否認しました。 さらに、弁護側は「時速およそ70キロでのバック走行は危険運転致死傷罪の成立要件である『制御困難な高速度』には当たらない」と主張。これに対し、検察は「判例に基づき、速度だけでなく、走行状況なども踏まえて判断すべきで、〈バック走行〉も 考慮すべき重要な事実」と指摘し、危険運転致死傷罪が成立するとしました。 その後、証拠調べでは、亡くなった横田さんの父親の調書が読み上げられました。 この中で父親は、「交通事故ではなく、殺人としか思えない。非常識で身勝手な行為を重ねた結果で絶対に許せない」とし、松本被告に厳しい処罰を求めました。 20日は、被告人質問や横田さんの遺族による意見陳述などが行われます。 裁判は、21日結審し、27日火曜日に判決が言い渡される予定です。