韓国大統領選で“ディープフェイク”急増、昨春総選挙の10倍 監視チーム新設も…続く「いたちごっこ」

6月3日に投開票される韓国大統領選の主要候補者の情報で、人工知能(AI)を使って巧妙に表現した偽映像などの「ディープフェイク」が急増している。中央選挙管理委員会が4月4日~今月19日に削除要請した偽映像は3598件に達し、昨年4月の総選挙時(3カ月間)の約10倍に及ぶ。偽映像などは有権者の判断に影響を与える恐れがあり、選管や警察は取り締まりを強めているが、削除されても新たな情報が出てくるスピードが速く「いたちごっこ」が続いている。(ソウル山口卓) ソウル郊外の果川市にある中央選管で20日、新設された「虚偽事実・誹謗(ひぼう)・AIディープフェイク特別対応チーム」の職員約20人がパソコン画面に目を凝らし、偽映像を見分けていた。 偽映像などとして削除要請するかどうかは、3段階で判断する。まず目視で分かるものはすぐに対象とする。判別しにくい場合、政府機関が開発した偽映像の可能性を自動で見極めるシステムを使う。さらに巧妙なケースは、大学教授やAI開発企業などの専門家に判断を委ねる。 中央選管サイバー調査課の金善雄(キムソンウン)主務官が判別システムのデモを見せてくれた。女性が自然に話しているように見える映像をシステムに入力すると、1分もたたずに偽映像の可能性「83%」と表示された。金氏は「以前は偽映像などを作るには専門技術が必要だったが、今はデータを入力すれば簡単に作れるようになった。偽映像は有権者の投票判断を誤らせる可能性があるため、徹底して削除していく」と話す。 大統領選が終わるまで、全国17カ所、計約450人の職員で常時、監視と削除要請を続けるという。 □ □ 今回の大統領選では、主要候補3人が標的にされてているケースが目立ち、投開票日が近づくにつれて増えている。 最有力とみられている最大野党「共に民主党」候補の李在明(イジェミョン)前代表に関する偽映像は、李氏が「国会で私に反対すればすぐに戒厳令を宣言し、国会議員を逮捕するだろう」と話す姿が確認された。李氏が韓国を「中国の属国」と話す偽映像も出た。いずれも申告を受けて削除されたが、既に多く再生された後だった。 与党「国民の力」候補、金文洙(キムムンス)前雇用労働相が保守系候補の一本化を争った韓悳洙(ハンドクス)前首相とけんかする映像や、「改革新党」候補の李俊錫(イジュンソク)議員が政治ブローカーに泣きつく映像もあったが、全て偽物だった。 警察は偽映像などの流布を「五大選挙犯罪」と規定。削除要請に加え、悪質な場合は告発する方針だ。 ただ、削除のスピードより偽映像の拡散の方が早い。金主務官は「国内のプラットフォームはすぐに削除されるが、ユーチューブなど海外のプラットフォームは海外の本社で削除の是非を判断するため、時間がかかる場合もある」と指摘する。 ◇ ◇ 偽映像が性犯罪につながるケースも多い。女性家庭省と韓国人権振興院が発表した「2024 デジタル性犯罪被害者支援報告書」によると、映像削除や法律支援、カウンセリングなどのワンストップ支援を担う政府の支援センターが、24年に対応した被害者は前年比14・7%増の1万305人で、発足以来初めて1万人を突破した。 経済紙、韓国経済によると、若者を中心に偽映像などを生成するアプリが急速に拡大。顔写真などを入力するだけでキスや抱擁するようなコンテンツを自動的に作り出す。同紙は「刑事処罰される可能性がある」と指摘している。 共に民主党は、偽映像の制作だけでなく、ネットで拡散させるプラットフォームに対する処罰強化を検討中で、大統領選の公約としても近く発表する見通しだ。

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