衆院選のさなか、国政の中枢である東京の自民党本部と首相官邸が立て続けに襲撃された。いかなる理由があろうとも、言論と民主主義を脅かす暴力は断じて許されない。 先週末の早朝、男が火炎瓶のようなものを党本部に投げつけた後、車で約600メートル離れた首相官邸前の防護柵に突っ込み、発煙筒のようなものを警察官に投げた。男は公務執行妨害容疑で現行犯逮捕された。 車内からガソリンの入ったポリタンクが見つかった。犯行時にガスマスクや防護服を身に付けており、計画的だったとみられる。 機動隊員3人がのどに軽いけがをした。人通りの多い平日であれば、より大きな被害が出た可能性もあった。 容疑者は調べに対し、黙秘している。取材に応じた父親によると、選挙の供託金制度に不満を漏らしていたという。 詳しい動機や経緯など真相の解明を求めたい。 選挙活動中に政治家らを狙った襲撃事件が続いている。 2022年の参院選では、奈良市で安倍晋三氏が街頭演説中に銃撃され、亡くなった。昨年の衆院補選では、和歌山市で当時首相の岸田文雄氏の演説直前に爆発物が投げ込まれた。 警察は、衆院選で屋外での要人、重要施設の警備に厳重体制を敷いていたという。中でも党本部と首相官邸は、常に張り付いて目を光らせていた場所である。 なぜ最初の党本部で制止できずに、車による移動まで許してしまったのか。内部からは「失態」との声も上がる。 警察は今回の事態を重く受け止め、警備体制と対処について検証し、再発防止を徹底しなければならない。 米国でもトランプ前大統領が7月、選挙集会の演説中に銃撃されて負傷し、9月にも未遂事件が起きた。3年前にあった同氏支持者らによる連邦議会議事堂の襲撃をはじめ、力によって言論を封じる凶行の連鎖が危ぶまれる。 衆院選の投開票まであと3日。期間中は、有権者が政治家の訴えを直接聞くことができる貴重な機会となる。安全確保に万全を期した上で、必要以上に有権者を遠ざけることがないよう留意も欠かせない。 政治家や政党の主張と自分たちの考えの相違を見定め、1票の行使によって意思を示し、民主主義を守りたい。